あたしは中学二年生になった。
クラス替えで2年B組にクラスが変わり、鈴木・佐々田・世良・あたしの四人が二年ぶりに同じクラスにそろった。
永野はもちろん、別のクラスになった。
このクラスは元・西町小出身者が多く、中でもあたしたちがいた旧・六年四組の出身者が大半を占めている。
そしてお姉ちゃんが卒業して、千寿西高校へ入学した。
西山中学には、入れ替わりで妹の和紗が入学してきた。
うちは三姉妹中二人が入学で、あわただしい春を迎えた。
昨年の夏前に剣道部を辞めたので、自動的に帰宅部になってしまった。
西山中学では全員が部活に入ることを義務づけられている。
あまり長く帰宅部をしているわけにはいかない。
新学年になったことだし、一年生にまざって部活動見学をしようと体育館へ向かって歩いていたところを後ろから呼び止められる。
呼び止められたというよりは、叫びに振り向いたと言ったほうが正しいかもしれない。
「そこの三つ編みの人!」
あたりを見回してみたが、あたし以外の人はいなかった。
みんな下校してるか、部活してるんだろうから当然か。
振り返った先には、一人の男子が立っている。
ネクタイがあたしのリボンと同じ青色、ということは同じ学年か。
「もしかして、部活見学に行くんですか?」
「そうですけど」
「よかったら、これどうぞ」
そう言って、彼が手にしているチラシを渡された。
B5版のわら半紙に、おせじでも綺麗と言えない字で『陸上部』と大きく書いてある。
西山中学に陸上部はなかったはずだ。
もしあったら入学直後に入部していただろう。
「あのぅ……」
「何でしょう?」
「陸上部って、今までありましたか?」
我ながら、すごく失礼な質問だと思う。
けれど、彼はそんなことは気にしていないらしい。
「いいえ」
「じゃ、入部できないじゃないですか」
「今年からできるんです」
そうか。それならあたしが知らないはずだよ。
「あぁ、よかった。二年生の人で。声かけるまで『三年生だったらどうしよう』と思ってたんですよ」
へ? どういうこと?
あたしの頭の中は軽く混乱した。
「何で『三年生だったらどうしよう』なんですか?」
「三年生は転部禁止なんですよ。だから、期待させちゃったら申し訳ないな、と」
ということは、先輩がいないってこと……。
「それ本当ですか? 三年生が入れないって……」
「本当ですよ。もしよろしければ、お友達も誘ってください。入部届は裏にあります」
裏?
よく見ると、さっきのわら半紙はホッチキスで止められている。
めくると、部活動入部届がくっついていた。
「二日後のクラブの時間に初顔合わせやりますから、それまでに考えてみてください」
そう言って、彼は去っていった。
彼が去るのを見届けて、あたしは部活を見学せずに教室に戻ることにした。
2年B組のドアを開け、まっすぐ自分の席に着く。
急いでカバンの中から筆箱をあさる。
ペンを出すことすらもどかしい。
入部届をチラシからちぎるようにはぎ取って、自分の名前の下に大きく部活名を書き入れる。
書き終えると、職員室へ向かう。
あぁ、顧問の先生の顔がわからない。
職員室に行ってから尋ねればいいや。
第六話(1)・終