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『西山中学陸上部』感想




『続・小説の主張』(現在は閉鎖)の管理人・篠崎由羅さまより
いただいた感想です。
第一話から第七話の4までを読んでいただいた感想になります(ネタバレ有)。
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中学生のお話というだけあって、全体的に若さを感じさせる作品です。主人公・瞳の視点を通じ、中学時代におこるみずみずしい出来事をつぶさに表現されています。また、瞳を通して書き手である砂原さんの価値観もうまく描かれています。作家のアイデンティティを感じさせる作品です。


 日常の中に主張を織り交ぜた作品だからこそ、読者に「どう感じるか」を突きつけています。こういった思考型の作品は数が少ない為、私自身いろいろ考え入りながら読ませて頂きました。
ただ、個人的にはこの作品、瞳に共感出来るか否かで、感想が大きく分かれるのではないかと――そんなふうに思います。
全体を通じての印象としては、第五話までと第六話以降では、瞳の視点が成長しているように感じました。これほどリアルに成長を感じさせる作品を描けるというのは、本当に素晴らしいことです。



 主人公の瞳は「中学生特有の素直さ」や「正義感の強さ」があり、とても魅力のあるキャラクターだと思います。
しかし、第五話までの部分では「正しいことは、貫けばいいんだ」的猪突猛進ぶりも見え隠れし、そこに疑問を感じました。
世の中には「どんなに正しくても、貫けない事態」というのは、往々にしてあります。また、「正しくても、闇雲に貫けば、それがただの暴力となってしまう」ことも多々あります。「どんなに自分が正しいとわかっていても、社会の理不尽さに歯を食い縛り、堪え忍びながら一歩ずつ努力していかねばならない」――そういったことも巷には溢れかえっています。
そして、だからこそ人は自分と向き合い、表面的ではない真の強さを導き出すことが出来るのではないか――そう私自身は感じています。
また、前半部分の瞳には「私は正しい。だから、相手が間違っているんだ」という思い込み的側面も見られ、「果たして、そうとばかり言えるのだろうか?」という疑問も感じずにいられませんでした。
「BATTLE!」でカンニングの疑惑をつきつけられた時、永野に猛然と抗議したことや、「TROUBLE MAKER」で先輩達に抗議し部活を辞めたことなど、それぞれのエピソードについてはとても納得がいきますし、共感する人も多いでしょう。現実の問題でも起こりがちなエピソード故、瞳がそれぞれの問題に対し容赦なく一刀両断している様に爽快さを感じる読者も多いと思います。
ですが、私はどうしてもそこで、「永野がそう言いたくなってしまいたくなる動機が、どこかにあったのではないか(たとえそれが永野の嫉妬に過ぎなかったとしても、です。人間とは弱い生き物だから、嫉妬に駆られた過ちというものは少なからず存在するでしょう)」「松浦先輩が瞳を毛嫌いしてしまった理由が、どこかにあるのではないか」と、思えてならないのです。


 瞳はとても素直な子だし、正直な上に正義感も強い、とても素晴らしい資質を持っていますが、ふと立ち止まって自分を省みる行動をしていないのではないか――そう思える節もありました。



 勿論、中学生であればそういった視点でいてもいいと思いますし、むしろ中学生の時点で「これは正しい。これは間違い」とはっきり分別出来る瞳は、大変頼もしいし立派だと思います。
ですが、「世の中はそんなふうに単純に切り分けられるものではない」と、そう教えられる大人達の登場があってもいいのではないかと、そんなふうに感じた次第です。(そんな中、姉・水樹の存在はとても重要なキーマンですね。生徒会長という立場でもあるせいか、他者と自分の接点を理解しながら妹を誘導していくのは、素晴らしいエピソードと思います。)



 「HOME GROUND」の中半以降、委員長の斎木との賭けについては、中学生特有の一本気なところ、そしてなかば無茶とも思える瞳の駆け引き内容がとても爽快でした。
冒頭にも書きましたが、前半の流れに比べ、このあたりから少しずつ瞳の思考が変わってきている印象を受けます。先に書いたような「省みる行為」というものを、このあたりから始めて来ているのではないかと、そう思いました。
また、後半競技中の表現についても、やっと瞳本来の良さが勢いよく滑り出したような印象で好感を持てます。これほどまっすぐでひたむきな瞳だからこそ、健全にスポーツなどでその力を昇華するのが一番いいのだろうと、深く納得しました。
第七話は因縁の敵(笑)松浦先輩がついに登場しますが、明らかにここでは「力がものを言う」というのが描かれていますね。怖いものなしだった瞳が、実は「怖かった」というのも――すごく納得が出来る上に、瞳の性格に奥深さを感じさせるエピソードです。


 全体を通しての感想としては、中学生という大人と子供の過渡期にある時代の出来事を、とてもリアルに、かつ活き活きと表現されていると思います。ただ起こった出来事を回想しているだけの小説ではなく、瞳の価値観をダイレクトに読者に伝え、それが故にいろいろと考えさせるきっかけを与えてくれます。前半部分の視点については少々厳しいことも申しましたが、それほど私自身が深く読み入ってしまう力をもった作品だったからだとご納得頂ければ幸いです。
作品はまだまだこれからも続くようですが、瞳がいろいろなエピソードを通じ、どのように成長していくのか私自身も楽しみです。
これからも執筆にお励みくださいね。陰ながら、応援しております。



2007年6月19日

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