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まどろみの夢

 明日も日は昇るだろう。世界を光で照らし、その後世界は闇に染まる。
夜――。
当たり前のことの繰り返し。平凡な日々の繰り返し。退屈だけど変わらない日々。
だけど人は欲深いから、もっと良い日常を求めて手を伸ばす。
それが安息から外れる行為だと気づいていながら。
届かないと分かっていた。だけど、それでも欲しかった。もしかしたらと思いたかった。
でも。
あの人はもう、隣に居ない――。
気持ちを伝えることは出来た。でも、その想いは届かず、逃げ出すように走り去った。
今、『彼』の幻影がぼんやりと頭に浮かんでいる。
そう、幻影。『彼』では無い、『彼』の幻影。
明日も、日は昇るだろう。
でも、明日の私の隣に『彼』は居ない。
いつもみたいに笑いながら話すことも、悩みを相談することも、何も出来ない。
心に開いた穴を見つめて、ただ空虚な感覚の中で、涙で濡れた枕に頭を埋めて、私は眠った。
明日など、来なければ良い。しかし、明日も日は昇るだろう。
変わることなく。残酷なまでに日々を繰り返すだろう。



 「ども、こんばんは」
声に眼を覚ました。ここは私の部屋、鍵もかけて、誰も入るなと言ってある。なのに誰だろう。
窓が開いている。空には私の頭と同じくらいぼんやりと三日月が浮かんでいる。
「もしもーし? 聞いてる?」
「……誰?」
壁に背をつけながら、恐る恐る尋ねた。
「怪しい者じゃないよ」
声と共に、闇に溶けるしなやかな体を翻して、私の前に黒猫が躍り出た。
金色の瞳が穏やかに私を見上げている。
「猫……? 夢?」
怪しすぎだ。
「かもね。それより君、どうして泣いてるの?」
夢なのだろう。
誰とも話したくなかったけど、夢ならば、そして相手が猫ならば、良いかもしれない。
「好きな人に、フラれちゃったの」
「へぇ……どうして?」
「わかんない。他に、好きな人が居るのかもしれないし」
言葉にするうちに、また涙が溢れてきた。枕を抱きしめてまた嗚咽を漏らす。
「泣かないでよ。会わせてあげるから」
少し焦ったように黒猫が言った。「え?」と顔を上げると、そこは違う場所だった。



ここは、学校の教室だ。机に黒板、見飽きた風景が広がっている。
「よう」
声のする方を振り返ると、『彼』がそこに居た。
夢なのだという意識と、本当に夢なのかという疑問が混ざり合って、ただでさえ出ない声が更に出なくなっていた。
「帰ろうぜ」
鞄を肩に担ぎながら近づいてきた『彼』は、私の手を取ってさっさと教室を出ようとした。
「ちょ、ちょっと……!」
引かれるがまま『彼』に導かれ、見慣れた廊下を通り、見慣れた玄関から見慣れた帰路へと出た。
ここに来るまでの間、人は誰も居なかった。
ぼんやりと薄明るい空の下、私と『彼』は並んでゆっくりと歩いていた。
何か言わなくちゃと思っても、何を言えばいいのだろうと声は消えていってしまう。
「俺さ」
唐突に、『彼』が口を開いた。
「卒業したら、この町出ようと思う」
「え?」
「やりたいことがあるんだ。夢っていうのかな」
普段そういうことを語りたがらない『彼』がどこか楽しそうに笑っている。
私は呆気に取られながら歩調を緩めた。
「俺、馬鹿だから。お前の気持ちにどう応えたらいいのか分からなくて……曖昧な返事してごめん」
いつの間にか、私達は足を止めていた。
「でも、お前の気持ち、すっげー嬉しかったから。だから……」
『彼』が真剣な眼差しで私を見つめている。
「卒業したら……俺と、一緒に行かないか?」
『彼』が、私の肩に手を置いた。
「お前さえ、良ければだけど。傍に、居てくれないか?」
夢だ。分かってる。だけど、夢なのに、私の眼からは涙がこぼれていた。夢なのに分かる。
『彼』の言葉が真実だと言う事が。
先のことは分からない。だけど、だからこそ今、言わなくちゃいけないことは――。
「まだ、分からない……」
「……そっか」
「だけど、卒業する時までに、ちゃんと返事するから。だから……」
肩に置かれた手に、私も触れた。
「明日も……一緒に居よう?」
頷く『彼』の微笑みに、私は安堵感からか脱力した。
明日も一緒に居ていいのだ。そう理解した途端、地平線から光が現れた。
太陽だ――。




 眼が覚めた。窓から射し込む光に、慌てて支度を始める私。当然猫は居ない。
駆け出しながら差し掛かるのは夢に出てきたあの道。
私が想いを告げ、『彼』の思いを知ったあの場所。
「あ」
道の真ん中を、眠そうな『彼』が歩いていた。所詮、夢の中のことだ。
だけど、私の心には既に太陽が昇っている。
夜明けを迎えた私の心は自然と体を動かし、『彼』を後ろから追いかけ、背中を叩きながら横に並ぶ。
「おはよ」
『彼』は一瞬面食らったようだったが、すぐに挨拶を返してきた。
不思議だ。昨日の夜はあんなに落ち込んでたのに。良い夢を見たせいだろうか。
単純だな、と自分でも思う。
そう思った途端、『彼』が言った。
「昨日、お前の夢見た」
「え?」
私が声を上げると、『彼』は小さく笑った。
「傍に居てくれるんだろ?」
口を開けて呆然とする私の前を、日の光を浴びた一匹の黒猫が横切っていった――。






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テーマは「夜明け」を使っていただきました。
ありがとうございました!
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