彼女 1

ススム | モクジ
 私には、大嫌いな同級生がいる。

        


いつものようにありふれたホームルームの時間。
その日、2年B組では校内陸上大会の種目別の希望を取っていた。
彼女は背すじをまっすぐ伸ばして大きな目でこちらを見ていた。
彼女の目はもともと大きい。
それがさらに大きくなるようなことを、私は彼女に言う。
「藤谷さん、何で?」
「へ?」
彼女が聞き返す。
私は話し続ける。
「あなた、足速いでしょう? 何も100に出ることないじゃない?」
言われた意味がわからないと言っているかのように、もう一度聞き返された。
「はい?」
いらいらする気持ちを何とか押さえながら、私は言葉をつないだ。
「100は距離が短いんだから、足の遅い子に譲って欲しいんだけど」

      

      

この言葉が彼女にどれほどの痛みになったのかはわからない。
彼女は陸上部員が専攻種目に出る資格はある、走るのが苦手な子は跳んだり投げたりする種目に参加すればいい、と言ったが、私は取り合わなかった。
そして、用意していた言葉を台本でもあるみたいに話す。
「足の遅い子や走るのが苦手な子が、かわいそうだとは思わないの?」
彼女が黙る。
言う言葉を探しているのか。
それとも、あきれたのかもしれない。
彼女にあきれられたとしても、私は何とも思わない。

      



 「……女子の種目についてはちょっと考えさせてもらうわ。時間をください」
私は彼女をはじめとした、クラスの女子に向かって言う。
その中には、彼女の親友もいる。
2年B組の委員長として譲るべきところは譲らなくては、決まるものも決まらない。
最終決定日は一週間後、それまでにどう持っていくかまた考え直さなきゃ。
男子は同じ委員長の仁羽にわくんに全部まかせた。
ほぼ希望通りに行けそうだ、と彼は言う。
いくら委員長とはいえ、本当はこんな風にクラスを自分のもののように扱っていいはずがない。
そのために男女各一人ずつ委員長がいるのだから。
ふとした瞬間に心の中のどろどろした、暗い気持ちが顔を出してしまいそうになる。
大嫌い。
憎い。
もっと苦しめばいい。
もっと、もっと。
流れ出す気持ちは止まらない。      

      

     

                                     


彼女(1)・終
    


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