彼女 2

モドル | ススム | モクジ
 ホームルームで感じたどろどろした気持ちを切りかえて部活動をしたかったが、そうもいかない。
私の入っている美術部には、彼女の妹がいるのだ。

      

 美術室に足を踏み入れる。
二、三年生はほんの数人しか来ていない。
一年生はというとだいぶ集まってきて、各自の作業に入ろうと準備をしている。
ふと、一年生のひとりと目が合う。
その子は私に小走りで駆け寄る。
「斎木先輩、もしよかったらどうぞ」
その手のひらには色とりどりの大粒の飴がいくつか乗っている。
私はくちびるだけでやわらかく笑うと、ピンク色の飴を取った。
「ありがとう」
そう言うと、その子は満足したように一年生の輪の中へ戻っていった。
来た時と同じように小走りで戻る後ろ姿を見ながら考える。
あの子と彼女は何が違うのだろうか、と。
妹だというわりには顔は似ていなくて、影では『血がつながってないんじゃないか』といったうわさもたまに聞こえてくる。
去年まで彼女たちの姉、西山中学史上初の女子生徒会長を見続けてきた上級生たちはなおさらそう思っているだろう。
三人の一番上と真ん中が似ていて、下がまったく正反対なのだから。

         

 私は彼女が嫌いだが、妹は嫌いではない。
彼女が嫌いだから妹も、なんてことは思っていない。
他の下級生たちと同じように接しているつもりなんだけど、さっきのような声をかけてくるくらいには好意的に見られているんだろうな。
性格的にも彼女とは違い、おとなしい子だ。


        
 さて、どうやって彼女と決着をつけようか。
一週間といっても土日をはさむから、学校に来るのは五日間。
できれば早いうちに決めたい。
でも、彼女たちにはもっと苦しんでもらいたい。
二つの気持ちが私の中で暴れだそうとしている。
彼女は今ごろ、何も知らずにいるんだろう。
彼女がいくら考えたって、なぜ私がこんなことをしているのかわかるはずがない。
わかってもらいたくない。
――どんな時でも強い人間に、何がわかるの。
彼女は強く、何者にも曲がらない。
一年生のときにかけられたカンニングの濡れぎぬをその強さでもって自分で払いのけた彼女。
あの時から、私は彼女が嫌いだ。
自分が正しい、自分だけは悪いものに染まらない。
彼女の強さを私はそんな風に受け止めてしまう。
こんな考え方をしてしまう私がおかしいことはわかっている。
それでも罪をおかしたまま、そんな強さを語って欲しくないのだ。
罪を知らないふりをするのは強さではないと思う。




 今年、陸上部ができた。
彼女とその親友、さらに同じクラスの男友だちがその部に入ったことは知っている。
来年の引退までに陸上部として活躍できる場が少ないから、あせっているんだろうな。
だとしても、私には何の関係もない。

        

 彼女とその親友がおかした罪を本人に謝ってほしい。
私の親友、若生朝子に。
もし、それができないなら私は彼女が何を言っても認めない。
たとえ校内陸上大会が彼女にとってどんなものであろうとも。

     

        

        

                                              
彼女(2)・終
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2009 Ai Sunahara All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-