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 山内先生が言ったとおり、二日後、校内陸上大会の詳しい内容が告げられた。
この大会で上位に入れば、中平市の大会に出られる。



 それは、ホームルームの時間に訪れた。
各種目の候補者の希望を取っていた時のことだ。
一種目の制限人数は二人から三人。
あたしはもちろん女子100メートルに希望を出した。
世良と鈴木の陸上部員二人も、それぞれ女子200mと男子100mに希望を出した。
それを見ていた委員長の斎木彩花が声をあげた。
「藤谷さん、なんで?」
「へ?」
「あなた、足速いでしょう? 何も100に出ることないじゃない?」
「はい?」
「100は距離が短いんだから、足の遅い子に譲って欲しいんだけど。他の陸上部員二人も」
三人して目を丸くして、固まってしまった。

        

       

 「――委員長は大会開催の詳しい内容を聞いていない? 『陸上部員は専攻種目に関して出場を許可する』ことになっているんですけど。陸上部員が専攻種目に出る資格はあるのよ」
「資格があるのはわかっているわ」
「わかっているなら、なぜそんなことを言うの?」
「足の遅い子や走るのが苦手な子のためよ」
「70メートル走があるじゃない」
70メートル走は中平市の大会の種目にはないが、足の遅い子や走るのが苦手な子のために設置された種目だ。
「それに投げる種目も跳ぶ種目もあるわ。走るのが苦手ならそっちに行けばいいだけでしょ」
クラス全員が出場する『全員リレー』と運動部ごとの『部活動リレー』がある以外は、普通の陸上大会と何一つ変わらない。
それなのに。




 「足の遅い子や走るのが苦手な子が、かわいそうだとは思わないの?」




 ―――呆れた。
言っている委員長自身が、正論を並べ立てて足が遅い子や走るのが苦手な子たちを可哀想がっているということに気づかないのか。
誰も『苦手な種目に出てくれ』、と頼んでいるわけじゃない。
走るのが苦手でも高跳びが好きな子や、砲丸投げが得意な子だっている。
距離が短くても走りたくない子だっている。
あたしだって短距離は速いけど、長距離は苦手だ。
そういう風に得意な種目に出ることにすれば、誰もかわいそうなことにはならないはずだ。

       

         
 「斎木さん、それはあなた一人の考え? 男子の方の委員長はどう思っているの? 先生は?」
「私一人の考えよ。仁羽にわくんも七尾先生も関係ないわ」
男子の委員長である仁羽孝明が、板書していた手を止めて振り返る。
「俺は鈴木くんが100に出るのは、いいと思うよ」
「仁羽くん、それは問題なしということよね?」
「うん」
「わかったわ。ありがとう」
男子側は問題なしということか。




 「……女子の種目についてはちょっと考えさせてもらうわ。 時間をください」
委員長が言うのを聞いて、あたしはうなずいた。
各種目の男子選手が決定して、今日のホームルームが終わった。
鈴木は希望通り男子100m、佐々田は幅跳びに決まった。



                                     





                                              
第七話(1)・終
           
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