午後はリレーが二種類ある。
『全員リレー』と『部活対抗リレー』だ
『全員リレー』はその名の通り、学年別のクラス全員でリレーをするというものだ。
もし欠席した人やけが人がいればその分、誰かが二回走る。
幸い2年B組には本日、欠席した人もけが人もいないので、全員が走る。
ひとり100M。グラウンド四分の一だ。
あたしはアンカーの一個前を走る。
アンカーは鈴木だ。
西町小学校6年4組を知る者は「ゴールデンコンビ、再結成だな」と思っただろう。
実際、リレーの順番が決まった頃から周りから何回も言われ続けていた。
バトンを受け取った時、B組は五クラス中三位だった。
あたしは周囲の期待通りにそれを一位にして、鈴木に渡した。
鈴木は安定した走りでそのまま一位でゴールした。
クラス関係はこれで競技が終了した。
あとは委員長との賭けの結果を待つばかりだ。
最後の最後、部活対抗リレーは運動部の各部活対抗だ。
卓球部がラケットを持つ、柔道部がけいこ着で出るなど、それぞれの部活の特徴を表していいことになっている。
学年もクラスも得点も関係なしの種目である。
陸上部は男子も女子もストップウォッチを手に走ることになっている。
男子は第一走者が1年生の重野くん、第二に板河部長、第三が牧村くん、第四が香取くん。
女子は第一走者に川添さん、第二・第三走者に1年生の板橋さん・川村さんをおいて、第四走者があたしだ。
勝ちたいなら短距離と2年生を入れた方がよかった。
でも、勝負にこだわらないからこそ、このメンバーになった。
男女ともなるべく短距離走者は入らないように話し合ったのだが、あたしが入ったのは四人中三人が1年生じゃバランスが悪いということでくじ引きをした結果である。
重野くんは唯一の1年生が入らないのはどうなのか、という理由により選手入りした。
1位が男子バスケ部、2位がサッカー部という結果で、男子は3位に入った。
女子はあたしの前までは順調だった。
前を行く女子剣道部の走者が、ちらり、とこちらを見た。
松浦だ。
その瞬間、前に竹刀があった。
足元を邪魔するように、わざわざ手を持ち替えて横に伸ばしてきた。
――こいつ。
邪魔なら無視していればいいのに。
あたしはそれを避けるように、一旦下がる。
竹刀を伸ばされたのは内側だ。
外側から一気に抜き去って駆け抜ける。
あとはゴールテープが待っていた。
結果を伝えるアナウンスが流れる。
『部活対抗リレー女子ただいまの結果は、1位陸上部、2位バレーボール部、3位剣道部、4位バスケ部でしたが、他のランナーに妨害があったため剣道部を失格とします』
どこかで『わぁっ』という声があがる。
4位だった女子バスケ部の子たちだろうか。
「藤谷さん、平気だった?」
酒井さんと伊狩さんが声をかけてくる。
「うん、大丈夫」
「まったく、なんなのよ。あれ、先輩でしょう?」
「余興なのに、そこまでして勝ちたいのかしらね」
「違うんだ。あの人とは個人的に色々あって」
『これにてすべての競技を終了します……閉会式を行いますので、クラスごとに整列してください』
競技終了のアナウンスが、あたしたちの声をかき消す。
「行こうか」
「どこのクラスが優勝したのかな?」
前を歩く酒井さんと伊狩さんの声を聞きながら、『うちのクラスでなければ困る』とは言えなかった。
各クラスごとに整列後、人数確認をして閉会式が始まった。
「それでは結果発表を行います」
あたしは心臓が飛び出そうなくらい、どきどきしていた。
やれるだけのことはやった。
もし賭けに負けたとしても、やるだけやったならどうしようもないことだ。
「第五位、2年C組」
右隣の集団から歓声が上げる。
陸上部員三人もいるし、女子も速い子いたもんなぁ。
あ、よく考えたらうちのクラスも陸上部三人じゃん。
あっちは三人とも男子で、こっちは女子二人と男子一人だけど。
「第四位、1年E組」
「第三位、3年D組」
他のクラスが呼ばれるたび、みんなでこっち見るのやめてくれないかなぁ。
「第二位、2年D組」
もうみんな誰一人前なんか見ていない。
見てるのはあたしの方だけ。
往生際悪く、目をつぶってしまう。
「第一位、2年B組」
あたしが顔をあげた瞬間、どのクラスより大きな歓声があがる。
「瞳!」
呆然とするあたしに駆け寄ってきたのは、世良だ。
「勝ったよ! 勝ったよ、あたしたち!!」
「勝った……?」
さっきまで逃げ出したかったくらいなのに、勝った、と聞かされてもピンとこない。
切らなくてすんだ髪の毛にそっと触れる。
「世良、あたし、夢見てないよね?」
「何言ってるの、瞳! 現実だってば! 何ならほっぺたつねろうか?」
「それは遠慮しておく」
もう整列していた列はぐちゃぐちゃでどこに誰がいるのか、わからない。
「藤谷」
ぐちゃぐちゃになった列の中から、鈴木と佐々田がやってきた。
「おめでとう。よく頑張ったな」
鈴木の声を聞いた瞬間、涙が出てきた。
気がゆるんだのか、安心したのか、自分でもわからない。
「あー、鈴木が瞳を泣かしたー!!」
「何、女泣かせてんだよー」
世良と佐々田に詰め寄られ、鈴木は困っているようだった。
――涙が止まるまで、少しだけそのままでいてもらおう。
あたしは涙を流しながら、そんなことを思った。
第七話(12)・終