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 2年女子100M決勝は昼前に始まった。
幅跳びの佐々田の応援をしていたところに集合の放送が流れる。
「行ってくる」
世良と鈴木に言い残して、その場を去る。
        



 決勝に残ったのは7人。
うちのクラスはあたしだけ残った。
緑・茶色・クリーム色・水色など、他のクラスのハチマキの色がやけにまぶしい。
コースの関係で全員一緒には走れないので、くじ引きで組を決める。
あたしは後の組になった。




 もう、ほんの一瞬で決まる。
――途中だけ飛ばして、結果だけ見たい。
そんなこと、できやしないのにそう思う。
何者も恐れないあたしが、来るはずの未来を初めて怖いと感じる。




 前の組はE組の子が、最初から最後までトップ独走で勝ち抜いていった。
C組の子が途中まで食らいついたんだけど、結局振り切った。
速いなぁ。あの子、どこの部だろう?
陸上部にスカウトしたいなぁ。
きっとあたしも他人から見たら、あんな感じで走っているんだな。
さてと、次はあたしの番だ。
後の組は三人だけ。
だからといって油断はできない。
予選と同じく、スタートラインに立って深呼吸。
左足を前に置く、クラウチングスタート。
『位置について、用意』
スタートする。
予選よりも、足が思うように動かない。
腕をちぎれそうなくらいに振って、足を動かすようにもっていく。
白いテープが見えた、と思ったらゴールしていた。




 『ただいまの2年女子100M決勝の結果をお知らせします。
1位、B組 藤谷瞳 記録 13秒48 2位、E組……』



 座り込みながらも、今度はちゃんと自分の耳で結果を聞くことができた。
――髪、切らなくていいのかな。
まだ全員リレーが残っている。
それが終わるまでは気が抜けない。
正午のサイレンが鳴った。
決勝が昼前に終わってくれて本当によかった。
今日のためにこさえられた、お母さんの『完璧弁当』がのどを通らなくなるところだ。



                               



                                     
第七話(11)・終
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