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 夕飯のあと、お姉ちゃんに相談することにした。
三人分のミルクティーを持って、あたしの部屋に行く。
途中で一個を、和紗の部屋に置いてくる。
勝手に部屋に入ったって怒られるかな?



 話をひととおり聞いてから、お姉ちゃんは話し出した。
「で、あたしに何を相談したいの?」
「委員長を打ち負かせる知恵を授けてほしいんだ」
かつて、各部の部長やら委員長連中たちと渡り合ってきた元生徒会長の知恵を借りたいと思った。
「その委員長のことよく知らないから、あくまで参考程度でいいなら教えるけど」
「それでもいいよ」
――あとは、あたしがそれをどう使うか。
それだけだ。



 「まず、すぐカッとして相手の口車に乗せられないこと」
一言目で、ぐっと言葉が詰まりそうになる。
「仮にあんた一人の意見だけ通してたら、いずれはクラスの運営だって支障を来たすわ。 第一、『時間をくれ』って相手が言ったってことはこのままじゃクラス運営がとどこおるから妥協点を見い出したいってところでしょう。
あぁ、陸上部員ってあんただけじゃないんだっけ?」
「世良もだよ」
「男子の方がすんなり決まったってことは、男女の委員長同士で意見の食い違いがあるのね」
「そうみたい」
「世良ちゃんと入れ替わったらいいじゃない。 あんたが200で世良ちゃんが100に出るのはどうなの?」
「世良がしぶしぶだけど賛成してくれてるから、それも考えてる。」
今日の部活の帰り道で話をしてきたばかりだ。
あくまで妥協案の一つとして話した。
もう一つある、捨て身の策はまだ内緒にしておいた。
世良に知られたら、絶対に『やめろ』って怒られるだろう。
「殴ったりとかは絶対にダメだよ」
「うん。それはしないつもり」
「あんたは考えるより先に身体が動く性質だもんね。もっともあたしもそうなんだけど」
お姉ちゃんはそう言うと、苦笑いを浮かべた。
あたしたち二人はそういうところだけ良く似ている。



 ――だからか。
お姉ちゃんが生徒会長になった理由が急にわかった気がした。
頭よりも身体が動くなら、その行動力をいい方向に生かしてしまえばいい。
へたに不良になって大人たちに押さえつけられるよりも、ずっと健全だ。

           


 「どうしても冷静になりきれない時は、相手のことより自分がどうしてそうしたいのか考えてごらん」
「へ?」
意外だった。
こういう時こそ、相手がどうしたいか考えるべきなんじゃないのかな?
「相手がどう思ってるかなんてわかるわけないでしょ、超能力者でもあるまいし。 なら、『どうして』そうしたいのか、これでなきゃだめだ、他の何かで代用がきかない、って相手にわからせないと。
それを『わがまま』ととらえるかは相手次第だけどね。
――どっちも妥協できないなら、自分が曲がるか相手を曲がらせる。それしかないんだよ」



 お姉ちゃんの言葉はあたしの中にずしり、と重く響く。



           
 「策は自分で考えなさい」
「それは用意してある」
捨て身の条件だから、できれば使いたくないけれど。
          



 話しただけで、結構、すっきりした。
話し終えて下に下りようとしたら、ドアの前に和紗がいた。
「お姉ちゃんのクラスの委員長って、斎木先輩だよね」
何で知ってるんだろう?
「あんないい先輩、いじめたら怒るからね」
「……いじめる、って……そんなこと、」
和紗は返答も聞かずに、スタスタと自分の部屋に入っていった。
――そういえば、和紗は美術部だっけ。
斎木彩花も確か美術部だったはずだ。
部活の先輩後輩であれば、部内で声を交わすくらいの交流はあるんだろう。
――いじめられているのは、むしろこっちだってのに。





 あたしがこっそり、ため息をもらしたことを和紗は知らない。




   



                                               
第七話(3)・終
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