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翌日の放課後、もめていた陸上大会の選手を決めることになった。
担任の七尾久美子先生ことくみちょーは生徒たちにまかせるようなことを言っているが、委員長に止められた。
「七尾先生もいてください」
――証人を立てるつもりだ。
他の人にはわからなかったかもしれないけれど、あたしはわかった。
いつものあだ名である『くみちょー』を使わず、『七尾先生』と呼んだことに委員長の本気を感じ取ったのか、くみちょーは立会いを了承した。

         

 放課後は女子だけが残って、跳ぶ種目や投げる種目はあっさり決まった。
人数が多数になりそうなところは、じゃんけんやアミダくじで決めた。
最後に100mと200mと400mが残った。
すでに決まった女子たちは、席に着いてはいるが退屈そうだ。
「私もずいぶん悩んだけれど、やはり陸上部だからって優先されるのはよくないと思うの」
「ちょっと待って。誰が『優先して欲しい』って言ったの? あたしたちはそんなこと言ってないと思うけど」
「あなたたち二人の言い方だと私にはそう聞こえたわ」
『聞いた』、『聞いてない』という話ではないのに。
―――カッとして相手の口車に乗せられないこと。
お姉ちゃんに言われた言葉を思い出して、心を静める。 
「委員長、あなたは校内陸上大会で勝ちたい?」
実に単純な質問をぶつけてみる。
もし「勝ちたい」と言ったなら、その時は条件つきで取引を持ちかけよう。
万が一、「負けてもいい」と言ったならその時は……。

    



「勝ちたいわ」
2年B組委員長――斎木彩花はまっすぐあたしを見ながら、告げた。
動くべきみちは決まった。




 「委員長、取引をしましょう」
「取引?」
「『取引』って言葉が悪ければ、『賭け』でもいいわ。
―――あたしたち陸上部員は2年B組を優勝させてみせる。
そのかわり、あたしたちが自分たちの専門種目に出ることを認めて欲しいの。 あたしたちは陸上部員ですもの。できないわけがないわ」
「ずいぶん、自信があるのね」
「自信?」
そんなもの、あるわけない。
あるのは……仲間たちといられる時間が短い、その焦りだけだ。
入部した時から判っていたことだったが、やはりつらい。
この機会を逃したら、秋の新人戦まで県レベルの公式戦はない。
「言ってくれるわね……もし、できなかったら?」
「その時は……そうね、この髪をばっさり切るっていうのはどう?」



 背中まで伸びたこの髪を、男の子に間違われるくらいに短く切る。
おそらく30センチくらいはあるだろう。
これがあたしの考えた取引の条件だ。







                                              
第七話(4)・終
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