赤垣が話した内容は、俺に充分すぎる衝撃を与えた。
昨年の県新人大会で注目され、陸上雑誌で紹介されたこと。
そのせいで転校が決まる前から、走高跳を楽しめなくなっていたこと。
しかし、今年の白和区の大会で入賞してしまい、県大会を辞退したと。
そんなのってありかよ。
あんなにきれいに空へと近づいていける。
そんなやつが県大会に行かないで、誰が行くっていうんだよ。
俺は赤垣に言ってしまいそうだった。
でも、言えなかった。
県大会には行かないと、辞退すると決めたのは赤垣なんだ。
これから県大会に行く俺が口を出せることじゃない。
―――どんなにつらくても、跳ぶ楽しさから離れられない。
伸びている数字やそれを越えていくこと。
走高跳にひかれていくのを止められなかった。
赤垣は俺たちとどこか違うと感じていた。
違うんだ。
上へ行きたいと願う、俺たちと何も変わらない。
そして7月23日、県大会初日。
俺は150センチのバーの前に立っている。
145は三回とも成功した。
いつもの俺じゃ考えられなかったし、一年前までバスケ部にいた俺が今は陸上部で県大会に出ているなんて、俺でさえ思っていなかった。
誰かのために跳ぶ、とか、嘘くさいと思ってた。
でも、ここに立てなかったあいつのために跳ぶのも悪くない。
俺は八城のようにスタンドを見なかった。
それでもあいつはきっと、俺や八城を見ているだろうと思った。
助走位置は145の時と同じ。
『牧村翼くん』
テントの中、記録係の机の上のスピーカーから俺の名前が呼ばれる。
「行きます」
すぐそばの審判に合図を送って、走り出す。
最初から全部手に入れようなんて、無理なんだ。
それなら、一歩ずつ近づいていけばいい。
いつか空を手に入れる、その日まで。
空を翔ける(3)・終