空を翔ける 2

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 赤垣は西山中学での生活に慣れてきたのか、だんだんと練習メニューに口を出すようになっていった。
まだまだできたばかりの部活だから、先生と相談しながら練習内容を変えることもあった。
その中で激しい言い合いになることもあったが、練習以外のことを話すときは切り替えて話ができるようになっていった。
『親友』とまではいかないが、友人のひとりとして赤垣と接するようになった。
だが、練習のときは違う。
145センチのバーに足がからんで、落ちてしまう。
俺の記録は中体連からずっと伸びないままだ。
校内陸上は135センチで一位通過した。
中体連では、三センチ刻みで136センチを跳んでいた。
練習のおかげで140は三回に二回は成功するようになっていた。
そして、140がほぼ跳べるようになってからは時々、145にも手を出していた。
――まだ足りない。
もっと、もっと高く。
空をけてみたいんだ。




 「牧村の跳び方は踏み切りが甘いし、上に余裕がないんだ。もっと『上』を意識しろ」
赤垣に強い口調で言われて、ショックだった。
顧問の山内先生に言われるより、きつい口調だ。
当たっているだけに悔しい。
それこそ羽がついたように跳ぶなんて難しい。
『空を翔けてみたい』
そう思う以上に『上』を意識するなんてできるのか?
「牧村、そっち側上げてくれ」
赤垣がバーの横の支えを上げるように言ってくる。
この前は150をみんなの前で跳んで見せたが、あいつの自己ベストはあんなものじゃない。
板河がどこからか探してきた去年の陸上雑誌のページに赤垣が出ていた。
そこには中学一年で、170を跳んだと書かれていた。
俺は自分の目が信じられなくて、何度も両目をこすった。
雑誌が間違ってるんじゃないかと思った。
今の俺はライバルどころか、足元にもいない。
そんな自分が情けなくて、つらい。
こんなに自分のことを考えたのも初めてだし、他人を意識したのも初めてだ。

        


 そういえばあいつ、県大会はどうするんだ?
赤垣が来たのは六月になってからだから、五月の中平市の中体連に出場してない。
おそらく前の学校で中体連の大会に出てるだろう。
だとしても転校してるのに出場できるのか?





 その疑問は、数日後に明かされた。
部長である板河がみんなの前で県大会の話をするときに、赤垣が言った。
「俺は出ないよ。……ってか、出られないだろ? 市内陸上に出ていないのに」
今回はサポート役だな、と小さく笑いながらつぶやく。
まるでそれが当たり前のように言う。
俺は赤垣に向かって聞きたかった。
「本当にいいのか?」と。
誰よりも高く跳びたいんじゃないのか、と。
だが、その疑問は声にできなかった。
赤垣と藤谷が口論を始めたからだ。
彼女はどうやら赤垣が県大会に出られないことを山内先生から聞いたみたいだ。
仲間であるとともにいとこでもあるだけに、衝撃も大きいのかもしれない。
そして彼女が落ち着いたころ、赤垣が話し始めた。



                                   



                                          
空を翔ける(2)・終
            
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