その姿は光(2)

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 10月に入るとお母さんのお姉さんの都子さとこおばさんからベビーベッドが届いた。
組み立てはあたしとお父さんが日曜日にやった。
お母さんは、入院用の荷物をまとめている。
「たぶん、二人目だから早く生まれると思うよ」
予定日は11月の中旬だってお母さんが言った。
「中旬っていつ?」
「んー、15日ぐらいかな?」
だって。



 学芸会も秋の遠足も終わって、11月になる。
学芸会、お母さん来れないかもって思ってたけど、来てくれて嬉しかったなぁ。
このあたりの冬は早い。
夕日が沈むのも早くなり、週三回のクラブ活動が終わるともう真っ暗だ。
その日の夕方、家に着くとお母さんの姿がなかった。
テーブルの上に置き手紙があり、お母さんが病院に運ばれたことを知った。
いよいよなんだ。
すごくどきどきしてきた。
30分もしないうちにお父さんが帰ってきて、病院にお母さんを連れて行ったことと荷物を取りに来たことをあたしに教えてくれた。
「世良、明日は都子さとこおばさんのところに泊まりだから準備しておいてくれ。今日はまだ生まれないだろうってお父さんも帰らされたんだ。明日、お父さんは病院で付き添う。生まれたらすぐに呼ぶからな」
「うん」



――翌日、夜明けすぎに妹が生まれたので、結局そのお泊りは中止になった。

            

 どうせ学校に行ってても気になって授業に身が入らないから、と強引にお父さんを説得して学校を休んで、病院に連れて行ってもらった。
新生児室のガラス越しに妹を見た。
枕元につけられた名字の札を見なくても、一目でわかった。
その姿は光のようにまぶしくて、きらきらしている。
他の子たちもその親から見たら、きっと同じなんだろう。
新生児室に入って白衣を着て、妹をだっこさせてもらった。
立ったままだと危ないから、椅子に座ってだけど。
重かった。
これが『命』の重さなんだ。
『命』ってこんなにきれいで、大事なものなんだ。
あたしは妹をだっこしながらボロボロ泣いてしまった。




 あの日の姿が忘れられなくて、名前を決めるときにあたしは「ひかる」を提案した。
が、早くから二人が決めていたようで、妹は「みやび」になった。




 妹が生まれて、あたしはちょっとだけいい子になった。
以前のように乱暴なだけのあたしじゃなく、たまには誰かに譲ることも覚えた。
家に帰ったら、お母さんの手伝いとしてちゃんとオムツやミルクの世話もする。
お父さんと協力して、お風呂にも入れる。
妹は退院してお母さんと帰ってきてからもずっときらきらしている。
きらきらした存在に負けぬよう、あたしはいつだってしゃんと立たなくちゃいけない。
かっこ悪いところなんて、見せられない。
『お姉ちゃんみたいなひとになる』
いつか、そう言われたい。



 年が離れているから、ふつうのきょうだいみたいに一緒に何かしたとかそういう思い出は作ってあげられないかもしれない。




 けれど、大きくなったら全部話してあげようと思う。
お母さんのお腹にいると知った日のこと。
あたしが初めてお姉ちゃんになった日のことを。
生まれたてのあなたが、どれだけきらきらしていたか。






                                              

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