ススム | モクジ

● WILD WIND 1  ●

 校内陸上大会が終わった。
今度は市内陸上への準備をしなくてはいけない。
校内陸上の上位者がすべて市内陸上へ出られるわけではない。
あくまで『選手候補』だ。
正式に選手が決まるのは大会の一週間前。
そのためにもっともっと、練習をしなければ。



 数日前から、げた箱に手紙が入るようになった。
でも、あたしはそれを開封することなく捨て続けている。
――差出人の名前がないのと、持った時に変な重さを感じたのだ。
あきらかに紙とは違う感じ。
案の定、何回目かに捨てた時、鉄製のゴミ箱が鳴った。
『ガチャン』と。



 げた箱は扉がないタイプなので、学年・男女関係なく何かを入れようと思えば誰でも入れられる。
心当たりがまったくないと言えば嘘になる。
けれど、堂々と呼び出しできない人間にこっちから応じてやるつもりは一切ないので無視しつづけている。
むしろ、そこまでして毎日何かを他人に送りつけているエネルギーがもったいないなぁ、と思う。
陰湿、陰険って言葉をそのまま表したみたい。     



 授業を終えて、あたしは校舎を出てプールと体育館をつないでいる渡り廊下を通りかかった。
このあたりはグラウンドを往復する人間には死角になる場所だ。
そのとき、小柄な女子に呼び止められた。
「ちょっと顔貸してくれない?」
は? 
なに、その一昔前の不良みたいな呼び出し?
誰だっけ、思い出そうとするが、知らない人だ。
かろうじて判ったのは胸のリボンが小豆色で、先輩だとわかったくらいだ。
「嫌です。 話がしたければしたい人が自分から来るべきでしょう。 違いますか?」
「いいから、こっち来いっ!」
首のリボンの結び目をつかまれる。
とっさのことで反応できない。
「ちょ……苦しい、離せ!」 
つかんできた相手の腕をつかみ返して、両腕でひねる。
「痛い、痛い!!」
相手はすぐにリボンをつかむのをやめた。
気づくと、相手の後ろには何人かの先輩たちが立っていた。



        
 ――そして、その一番後ろには松浦がいた。



                               

        

                                               
第九話(1)・終


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