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● WILD WIND 2  ●

 あたしは制服の襟を直しながら、向き直る。
「話があるなら堂々と来たらどうですか、松浦先輩?」
何人かいる先輩たちの一番後ろで、にやにやしている松浦に声をかける。
あたしの顔が苦痛にゆがんでいるのが、そんなに面白いのか。
松浦がまっすぐにあたしの方に向かって、歩いてくる。
        


 「あんた、邪魔なのよ」
松浦は抑えた声で、一言つぶやく。
女子の声ってこんなに低くなるものなんだ。
しかし『邪魔』って言われたって、透明人間じゃないんだからこの場で消えるわけにいかない。
ものすごく大げさにため息をついてみせてから、一気に言う。
「あたしのことが邪魔でうっとおしいなら、呼び出したりしなきゃいいんじゃないですか? 学年も違うし、部活動で会うこともないんだから。 それに、陸上大会の時もわざと足引っかけさせようとしてたし、言ってることとやってることが違いすぎないですか?」
言い終わった瞬間、どん、と背中を押された。
振り返ると、さっきリボンをつかまれた人ともう一人、ショートカットの先輩がいる。
「あんた、さっきから生意気よ!!」
おもいっきりにらみつけると、二人ともびびってくれる。
こういう時ほど、『目が大きくてよかった』と思う。
「さっきから聞いてるけど、コイツ、やっぱり生意気だねぇ」
さっきとは違う方向から声が飛ぶ。
よけいなお世話だ。
横方向から二人ほどに蹴られたので、当然、蹴り返しておく。
軽めのつもりだったが、結構力が入ってしまっていて相手がバタバタと転ぶ。
「何、コイツ。 むかつくんだけど!」
「いったーい。 なにすんのよ……」



 ここにいるこいつらに「こいつ」なんて呼ばれる筋合いはない。
冷静でいたいのに、どうして心はこんなにも『こいつらを絶対に許すな』と叫んでいるのか。
怒りで血がたぎる、とはこういうことか。



 「うるさい!! 外野は黙ってろ!」
あたしが蹴ったやつ、背中を押されたやつらはぼうぜんとしている。
反撃されると思っていなかったのか、いや、さっきの乱闘寸前を見ているなら簡単に手出しはしないだろう。
もしあたしに反撃される可能性を考えていなかったとしたら、ただの馬鹿だ。
「どうせ、お姉ちゃんが卒業したから来たんでしょう。 そんなところだろうと思った。 威張っているわりに臆病者なのね」
「……ねぇ、松浦ぁ、こいつ、あたしたちが礼儀教えてあげた方がいいんじゃないのー?」
年上とも思えない相手に礼儀を払えない。
「どんな礼儀だか」
挑発しているつもりはまったくないのだが、声に出ていたらしい。
「そうなのよー。生意気なんだよねー。だから、シメちゃおうと思ってさ」
は?
「二度とそんな口がきけないようにね」
パチン、と何かを開いたような音が聞こえる。
松浦の手には、折りたたみ式の小型ナイフが握られていた。

     







                                          
第九話(2)・終
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