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I WISH(SIDE-B)

だいぶ前に別れた彼女にやった指輪が棚の奥から出てきた。
前の引っ越しの時に捨てたと思っていたのに。



指輪は当時の部屋の鍵と一緒に彼女から投げつけられたものだ。
なぜ投げつけられたのか、といえば、その時、俺の横に女が寝ていたからだった。 
その女は仕事仲間で、前の日に他の仲間と飲んだあとそのまま女が押しかけてきた。
そういう行為は一切してない。
これは断じて言える。
酔ったままやれるほど、俺は器用じゃない。
   


彼女が誤解して鍵と指輪を投げつけて帰った後、俺は追いかけなかった。
アパートだって知っていた。
でも、しなかった。
もう、どうにでもなれ。
そう思っていた。
つき合いが長くなってしまって、お互いを思うことを怠けていた。
彼女は夢に向かって、仕事をかけもちし始めていた。
目標にまっすぐ突き進む彼女を正直羨んでいた。
自分が妥協して仕事を選んだことを見せつけられているようにさえ感じた。




 あれだけまっすぐな女を、俺は他に知らない。
自分が弱っているところを見せない女だった。
どん底まで一旦落ち込んで、立ち直ってから報告するような、そういう女。
そんなところも魅力だったけど、もっと頼って欲しかった。
『俺は何のためにいるんだ?』
いつも聞いてみたかった言葉は、永遠に胸の中だ。


    

 それでも歴代の彼女たちのなかで、あの『彼女』だけが俺にきちんと向き合ってくれたと思う。
「20歳まで生きられるかどうかわからない」
俺が生まれたとき、両親が医者から告げられた言葉だ。
そのせいで、中学入学が一年遅れた。
中学までは他と違うと嫌でも意識させられてきたが、高校に行ったときにはさほど気にならなくなった。
留学や留年で一年遅れている者もいたからだ。
大学に入ったときにも周囲には何も言わなければ気づかれなかった。
勝手に幻滅して去って行った女もいた。
21歳の誕生日を迎えた日に、『彼女』に昔、医者に言われたことを告げてみた。
そのあと、彼女はこう言った。
「20歳越えられておめでとう。私と出逢ってくれてありがとう」
このとき、彼女を好きでよかった、と思った。




 彼女に鍵と指輪を投げつけられたことが、事実上の破局宣言だった。
連絡したくても携帯電話の番号もアドレスも変わっていた。
彼女の友達に聞いても、誰もが知らないと首を振った。
たぶん、俺に教えないで欲しいと彼女から頼まれているのだろう。
切る時はすっぱりと。
実に彼女らしいやり方だ。そう思った。
しばらくたってから手紙を書いてみたりもしたが、あて先不明で手元に戻ってきた。
俺は連絡を取ることを諦め、転居した。
あれから何人かとつき合ったりもしたが、何となしに振られるパターンが多かった。
身体はほとんど健常と変わりない。
昔の寿命宣告も今となっては笑い話だ。
会社は辞めるか辞めないかの瀬戸際でフラフラしている。

    

 彼女はどうしているだろう?
結婚でもして、子どもの一人や二人くらいいるだろうか。
つまらない女になってしまっただろうか。



 好きだったのに、どうして優しくしてやれなかったんだろう。
言葉にしなくても、態度に表さなくても判ってくれる、と甘えていた。
好きならなおさら言葉にするべきだったのに。


    

 どうか神様。
今の彼女が優しい男とめぐり合えていますように。
俺みたいに不器用で甘ったれな男じゃなくて、彼女をまるごと包んでくれる、そんな男に。
祈ってみたって届くかどうかわからないけど、祈りたかった。
どうか幸せでいてください、と。  





                                          
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