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● CATCH FIRE 1  ●

 ある日部活を終えて家に着くと、門の前に女の子たちが数人固まっていた。
何してるんだろう?と思いながら、門扉を開けると声をかけられた。
「あのっ……」
振り返ると、固まって立っていた女の子たちの視線が刺さる。
「何か?」
「ここって……赤垣先輩の家だって聞いてきたんですけど……」
「そうだけど……展人に用事? 呼んでこようか?」
たぶん、あたしより部室を先に出たから寄り道してなければもう着いてるはずだし。
あたしに声をかけてきた女の子はうつむいてしまった。
後ろからその子の友だちらしき女の子が代わりに答える。
「なんであなたがいるんですか?」
尋ねられて、あたしは眉をひそめる。
目が返答しだいでは、あたしに食いつくんじゃないかと思うくらいけわしい。
「『何で』って、ここ、あたしの家なんだけど」
女の子たちがいっせいにあたしを見る。
その目は疑いに満ちている。
「ここに『藤谷』って入ってるの、見えない?」
レンガ造りの門に向かって左側に、石で『藤谷』と彫られた表札が埋め込まれている。
彼女たちがそこを見つめている間に、制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出して写真と名前の入った、手帳の裏表紙を見せる。
「あたしは藤谷瞳。 赤垣展人のいとこです。 で、展人に用事なら呼ぶけど、どうする?」
「……いえ、いいです」
彼女たちは真っ赤になってうつむいた。
なんでみんな同じ反応をするのか、ちょっと不思議だった。
「暗くなるから、早く帰ったほうがいいよ」
そう声をかけると、路地から一人減り二人減りしていった。



 夕食の時、展人に玄関前でのことを伝えた。
「あぁ、それ、ファンクラブの子たちかも」
「ファンクラブ?」
あたしは思わず、聞き返した。
「お姉ちゃん、知らないの? 最近できたんだよね。 うちのクラスでも展ちゃんのファンの子いるよ」
和紗があたしに教えてくれる。
そんなものがあったなんて、ちっとも知らなかった。
「ファンクラブだなんて、展人くん、もてるのね」
お母さんがさらりと誉める。
「いや、別に」
学校内にファンクラブがあって家に押しかける女子がいるのに、「別に」ってことないだろう。



 次の日、学校で聞いたらみんな知ってたみたい。
知らぬはあたしばかりなり、ってことか。
「瞳、本当に知らなかったの?」
世良と智穂に呆れられた。
「ほんっとに、恋愛関係うといよね。瞳ってば」
智穂にそんなことを言われる。
うるさい。
「転校してきてすぐ、150cmまで高跳びで跳んでみせたでしょ? あのとき、運動部の女子中心に『かっこいい』ってなった子が多いらしいよ」
「確かに背高いし、顔も整っているとなれば女子もほっとかないよ。
もしかして前の学校でもファンクラブ、あったんじゃないの?」
そうなのかな。
何も聞いたことないけど。




 展人に聞いたら、前の学校でもファンクラブはあったそうだ。
「転校したから今はもうないと思うけど」
今でもあったら、きっともっと前から家の前が怖いことになっているはずだ。




 それからほぼ毎日、家に帰ると必ずといっていいほど女の子たちが待ち伏せていて。
あたしはその厳しい視線のなか、家に入らざるをえない。
家に帰ることがこんなに苦痛になるなんて、思ってもいなかった。

 




   

                              

                                                 
第十一話(1)・終
   
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