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● CATCH FIRE 2  ●

 家の前に毎日のように待ち伏せていた女の子たちは、次第に姿を見せなくなっていた。
たまに一人二人いるくらいだ。
展人が「家に来るな」とか何とか言ったんだろう。
まぁ、人あたりのいいあいつのことだから、もうちょっと柔らかい言葉で伝えただろうけど。



 なのに、あたしは、どうしてこんな場所で大勢の女子たちに囲まれているんだろう?




 あたしが今いるのは、昇降口前のロータリーになっている場所。
放課後ということもあって、帰宅する生徒たちや部活に向かう生徒たちでごった返している。
あたしを囲む女子たちは、20人はいるだろうか。
みんなが見守る中、見世物になった気分だ。
早く部活に行って走りたいのに、邪魔しないでよ。




 「赤垣くんの好きな人って、藤谷さんなの?」
女の子たちのひとりが話しかけてきた。
でも、その口調は話すというより、責められているみたいだ。
それに、なぜあたしに聞くんだろう。
「誰がそんなこと言ったの?」
「赤垣くんに聞いたの。 『好きな人いるの?』って聞いたら、『いる』って」
あぁ、いるんだ。
初めて聞いたことだけど、別に驚きもしなかった。
あたしにはいないけど、中学二年生ならいてもおかしくはないよね。
「で?」
「一番近くにいる、藤谷さんのことじゃないかと思って……。 仲良いみたいだし」
あたしは思わず、顔をしかめる。
『仲が良い』だけで判断されても。
『一番近くにいる』って、あたしだけじゃなくお姉ちゃんや和紗も同じ条件のはずなんだけどな。
「同い年のいとこ同士、仲良くて何がいけないの? それにそんなあいまいな情報だけで、責められなきゃいけないの? もし仮にあたしがあいつのことを特別に思っていたとして、それはあなたたちに何の関係があるの?」
女の子たちは誰も反論してこない。
「どいて」
垣根みたいになっている彼女たちをかきわけるようにして、部活へ行こうとしたその時。
「……ずるい」
ぽつりと聞こえた声があった。
でも、あたしはそれを無視した。




 『ずるい』って、何が?
展人といとこだということが?
普段から男の子たちと一緒にいることが?
いとこ同士に生まれたことは、あたしが決めたことじゃない。
同い年に生まれたのだってそうだ。
男の子たちと一緒にいたって、世良や智穂、陸上部のみんなも一緒だから特定の誰かといるわけじゃない。





 あたしは、まだ、誰かを友だち以上に思ったことはない。
誰かを自分の『特別』にしていくこと。
誰かに自分が『特別』だと思われること。
その思いは、彼女たちのように判断を鈍らせていくのか。
今日のことだってそうだ。
誰かが聞いた展人からのあいまいな情報だけが真実となって、あたしに降りかかってきた。
「何かがおかしい」
そのことに誰一人、気づかずに。





 こんな目にあうなら、『特別』になんかなりたくない。
『特別』なんかいらない。
   

   



                                                


第十一話(2)・終

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