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● CATCH FIRE 10  ●

 叫べるだけ叫んだら、すっかり声がかれてしまった。
部活行く前に水飲み場に寄ろう。
声と引き換えたみたいに、気持ちは晴れやかだ。


 階段を駆け降りて、教室へと向かう。
教室はもう誰もいなくて、あたしの荷物だけが机の上に取り残されていた。
カバンと体操着入れを持ち、脇から黄色のスパイク入れを外す。
スパイク入れを持った右腕で、背負うように肩にかける。
さっさと部活行って、走ろう。
本当は誰にも会いたくなかったが、県大会も近づいてくる。
あんまり休むわけにいかない。
もうすぐ七月になる。
吹く風は湿気を含んだ熱気から、次第に夏特有の乾いた熱気を帯びてくる。
季節は確実に夏へと近づいていく。
「藤谷」
後ろから、声が聞こえた。
「部長……」
そこにいたのは、部長の板河くんだった。
「これから部室か?」
「うん」
「悪いんだけどさ、山内先生のところに行ってこれと同じような箱もらってきてくれないか?」
「わかった」
「中身はもっと軽いはずだから、頼むな」
「職員室だよね?」
「ああ」


 職員室に行くと、あたしの顔を見た山内先生は待っていたかのように箱を差し出した。
「これ、なんですか?」
箱の中身について尋ねる。
「ブルーシートと、陸上部専用のユニフォームだ」
市内陸上大会のときに着たものではない、別のユニフォーム。
あれは学校のものだったけれど、今度はあたしたち専用のもの。
どんなデザインだろう?
なんだかわくわくしてきた。
それにしてもユニフォームはともかく、何でブルーシートがいるんだろう?
「ブルーシートなんて使うんですか?」
「ああ、県大会の場所取りに使うさ」
「場所取り?」
いまいちよくわからないあたしに、先生が説明してくれた。
「そうだ。 市内陸上のように各学校の場所が決まっていないから、当日に場所取りをしないと荷物置きや休憩場所がなくなってしまうんだ」
そうなんだ。
初めて聞いた。
「まぁ、そのへんは板河に詳しく説明するように言ってある。 ……それと、藤谷は赤垣とどれぐらい親しいんだ?」
「どれぐらい、って……」
急に話題を切り替えられて、どう答えていいか悩む。
まさか『男友だちが自分を見捨てるぐらい』とは言えないし……。
「普通のいとこ程度には仲がいいと思っています」
「そうか……本人から何か聞いているか?」
『何か』って、なに?!
「いいえ、聞いていませんが……何かあったんですか」
「実はな……、赤垣は前の学校で『県大会を辞退してきている』というんだ」
「!!」
全身に衝撃が走る。



 転入当日、みんなの前で跳んでみせた展人。
走高跳を知らないあたしでさえ、背すじが凍った。
あれだけ跳べる彼が、『辞退』――?!





                                                
第十一話(10)・終


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