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● CATCH FIRE 9  ●

 「もういいだろ」
鈴木はそう言うと、振り切るように階段を降りて行ってしまう。
佐々田は、何度もこちらを振り返りながらも、鈴木について行ってしまった。
あたしはその場に、ぼうぜんと立ちつくす。


 何を言っても、もうわかってもらえない。
二人はあたしと明日から今までどおりに話してくれるだろうか?
佐々田が言ったことがすべてなら、おそらく無理だろう。


 本当に終わった、と思った。
ずいぶんあっけなかった。
友だちって作るのは難しいけど、無くすのは一瞬なんだ。
友だちをあきらめたくない。
あきらめたら、それは友だちをやめるのと同意義だと。
そう思っていたけれど、相手から先にあきらめられてしまった。
もしあたしが男の子だったなら、あきらめられることなく一緒にいられただろうか?



 そう感じた瞬間、あたしは生まれて初めて、自分が女であることを呪った。
呪った、というより、自分自身を『嫌』だと感じた。



 あたしは今まで女として生まれたことに『嫌だった』とか『男の子に生まれたかった』と思ったことは一度もない。
女性らしい身体への変化もあるがままに受け止めてきた。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんも和紗もあたしがあたし自身であることだけを受け止めてくれていて、それはきっと男に生まれたとしても同じことだろう。
『もし男に生まれていたらどんな子だったんだろうか』と何となく思ったことはあるし、口のあまりよくない親戚や周囲から何度となく言われた経験もある。
今考えたところで、どうにかなるものではない。
どうにもならないと頭ではわかっているけれど、それでもわきあがる感情は止まらない。
鎖骨のあたりをブラウスと青色のリボンの上から握りつぶす。
まるで大きな炎が内側で燃えているかのように、胸が熱くて、苦しくて、痛い。
うつむくと、二つに分けた結び目からほつれた髪の一房が顔にかかる。
「あ……」
髪をかきあげようとしたとき、ため息のように声がこぼれる。
もう駄目だ。
我慢ができない。
「うああああーーっっ!!」
声の限り、叫ぶ。
自分の存在をかき消したいぐらいに。









第十一話(9)・終

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