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● CATCH FIRE 12  ●

 荷物を持って部室に行くと、ちょうど中から出てきた展人とかちあった。
「そのまま、ドア開けといて」
そう言って荷物を運び入れようとすると、ふと荷が軽くなる。
上に乗せた体操着入れとスパイクを持ってくれたのだ。
さすがに肩にかけたカバンまでは持ってくれなかった。
当たり前か。
「ありがとう」
「どういたしまして」
展人が答えるのと同時に、体操着入れの下にあった『陸上ファン』の表紙を見てわずかに目を細める。
「読んだ?」
「何が?」
雑誌を指差しながら尋ねてきたが、知らないふりをした。
というより、中身は「見ただけ」なので「読んだ」と言えないだけなんだけど。
それを知ってか知らずか、口元で笑う。
「俺が出てるから読んでみろ。 あと、板河が待ってたぞ。みんなそろってから県大会の話するって」
「展人は?」
「いま、香取たち呼んでくる」
指差した先には、香取くんと……たぶん園部くん、黒川くんたちがいた。
ちょっと遠くて本当にそうなのかは自信ないけど。
中・長距離陣は外で練習開始を待っていたみたいだ。



 みんなで、男子側の部室に集合した。
仕切り用のカーテン開けとけばいいので、集合と呼べるかどうかよくわかんないけど。
「県大会の選手になっているのは誰だ? ちょっと手上げて」
部長の問いかけに、ほぼ全員が手をあげる。
中平市中体連陸上大会では三位までの入賞者に出場権がある。
他の部の県大会の日と重なっているみたいで、繰上げ出場が認められた。
そのため、ほとんど全員が出るかっこうになる。
「そういえば、赤垣は?」
香取くんが何気なく尋ねる。
展人はさらりと答える。
「俺は出ないよ。……ってか、出られないだろ? 中平市の市内陸上大会に出ていないのに」
今回はサポート役だな、と小さく笑いながら呟く。



 今年できたばかりの部活の県大会。
他の学区との大会をいろいろ経験している展人がサポートをするのは正直、心強くもある。
あたしはもう知っているが、やはり本人の口から聞いてしまうのは重い。
頭にというより、心に重く響く。
何より本人がそれをさらりと口にしたことにも、腹が立つ。
「……何で、」
あたしは口に出してしまった。
暗い顔をしていたのだろうか、世良が顔をのぞきこむ。
「瞳? どうしたの?」
「何で、跳びたいのにそんな簡単に口にできるの? 何で笑いながらそんなこと言えるの?」
みんなの視線があたしと展人を交互に見る。
「瞳、お前……」
「全部、山内先生から聞いてきた」
展人はとたんにあたしにきつい視線をくれながら、厳しい口調で吐き捨てた。
「先生から何を聞いたか知らないが、お前には関係ない。俺が死ぬほど考えて出した結論だ。 文句は言わせない。たとえそれがお前であってもだ」



 「俺たちにも判るように、説明してくれるか」
あたしたちにしかわからない話になっていたところを引き戻したのは、鈴木だった。
「今の二人の話の流れで行くと、俺たちも聞く権利はありそうだ」
鈴木は挑戦的な目で、こちらを見ていた。









                                      


第十一話(12)・終
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