展人の告白に、誰も声を出すことすらできなかった。
それだけ展人が語った言葉は重かった。
彼がぶつかった壁は、いつか遠くない未来にあたしたちにもありえることなんじゃないだろうか。
「赤垣が、いろんな想いを抱えてここに来たことはわかった」
鈴木が静かに告げる。
「だけど、俺たちを振り回すのはやめてくれ」
「振り回す?」
「ああ。 確実に俺たちは振り回されてる」
いったい、どういうことだろう?
あたしにはその意味がわからない。
「鈴木」
展人が呼びかける。
「『俺たち』って誰のことだ? お前自身が俺に振り回されてる、っていうなら『俺』だろう?」
「藤谷のことも振り回してるじゃないか」
急に自分の名前が出てきて、驚く。
確かに展人が転入してきてから、周囲がある意味目まぐるしく変化している。
これは振り回されてきた結果ということか。
「瞳はいいんだ。 俺のことをわかっているから、適当にあしらうだろうさ」
いいって、どういうことだ。
あたしはずっと振り回されっぱなしってことなのか。
二人の険悪な雰囲気を感じてか、周囲のみんなが止めに入る。
「ちょっと、やめなよ!」
「赤垣もけしかけるな!」
みんなで二人の間にさらに距離を取ろうとしている。
ガタッと大きな音が響く。
次の瞬間、あたしは信じられないものを見た。
鈴木が、展人の制服の胸元を自分に引き寄せるようにつかんでいた。
「そういう問題じゃないだろう!!」
「じゃあ、どういうことだか説明してみせろ。 それとも………」
言葉の最後は展人が声をひそめたようで、あたしには聞きとれなかった。
でも、至近距離にいる鈴木にはちゃんと聞こえたみたいだ。
鈴木は腕を振り払うようにして展人を解放する。
「板河、悪い。 俺帰るわ」
この状態を見ていたからか、部長は引きとめようとはしなかった。
「その方がいい。 お前らの間に何があるのかは知らないが、そんな状態で練習してケガされても困る」
鈴木はその言葉を聞くとほぼ同時に、自分のカバンをつかんで出て行った。
「待って!! 鈴木!!」
あたしはすぐさま、それを追いかける。
鈴木が立ち止まる。
「どうして、あたしが振り回されてるって思うの? さっき、展人は何を言ったの?」
あたしだって充分、周囲を振り回してる。
それに、もうあたしのことなんてどうでもいいんじゃないの?
『藤谷を信じきれない』
佐々田はああ言ったけど、鈴木はそうじゃないって信じてもいいの?
「今は言えない」
振り返らないまま、返ってきた答えはそれだけだった。
第十一話(14)・終