あたしは展人に告げる。
「ごめん。――あたし、展人の『特別』になれない」
あたしを特別にしてくれようとしていることは、嬉しい。
でも、それだけなんだ。
『特別』より、血のつながりで安心して隣にいたい。
たとえば、同じ目標や未来を見る者として。
展人にそれを望むのは残酷だろうか?
「お前には、もうそういうやつがいるってことか」
展人が確認するように問いかける。
あたしの頭の中をかすめる影。
「違う」
「俺の前では嘘をつくな」
嘘?
あたしは、嘘なんか言ってない。
「嘘なんて言ってないし」
言い捨てるみたいになってしまって、下を向いてしまう。
あたしの中では、まだ誰も『特別』な好きじゃない。
みんな同じ場所にいる。
それなのに、なんでそんなこと言うの?
「……いいかげんにしろ!」
急に両方の二の腕をつかまれる。
「な………」
下を向いていたあたしは、何すんの、と言おうとしたけど、驚いてしまって声にならなかった。
「お前はもうとっくに気づいているはずだ」
「何を?」
「誰が『特別』なのか、だ。 何をそんなに怖がるんだ?」
怖がる?
このあたしが?
「俺に群がった女子どもを見て、怖くなったのか? 藤谷瞳ともあろうものが。あんなのはそれこそ別格だ。 お前はお前だけのやり方で、『特別』を大事に育てていけばいい」
確かに、あんな風に周囲のことさえわからなくなってしまうなら『特別』なんていらない、なりたくないと思っていた。
まだ知らないと思っていた『特別』。
それがもう自分の中にあるの?
わからない。
自分がわからない。
あたしのやり方。
このままのあたし。
―――どこまでも一緒に行けると思っていた。
男だとか女だとか気にしないで。
それでいいのかな。
「展人」
そっと呼びかける。
「何だ?」
「あたし以外の誰かに『離れて行って欲しくない』と思ったことは、ある?」
あたしの問いかけに展人は目を見開いた。
そして、にやりと笑ってから答える。
「あぁ。あったよ」
第十一話(16)・終