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● CATCH FIRE 18  ●

 梁瀬さんから投げつけられた言葉は、衝撃以外の何物でもなかった。
でもどうして、あたしに言うの?
「それで?」
あたしはふだん通りの顔をしながら、聞き返す。
「そういうことだから、離れて」
「だから、何で」
『好き』なら、あたしなんか無視して『好き』だと言えばいいのに。
鈴木がどう感じるかわからないが、好意を告げる彼女を傷つけることは絶対にしないだろう。
彼は優しいから。
頭の中に彼の笑顔がよみがえる。
もう、あたしには二度と向けられないかもしれない笑顔。
隣に梁瀬さんがいることを想像する。
胸に小さく痛みが走る。


 「あなたの隣にいる鈴木くんを見たくないの。 藤谷さんも赤垣くんがいるんだから、わかるでしょう?」
梁瀬さんがすがるような目であたしを見つめる。
まだあたしと展人がつきあっていることを疑わない様子で尋ねてくる。
同い年のいとこと一緒に暮らしてるだけなのに、彼女の中ではつきあってることになってるんだろう。
あたしや展人のことを何一つ知らないくせに。
けれどあたしはその目を見つめることも答えを返すこともできなかった。
「そんな気持ち、わからない」とはね返すことすら。
口を開いたら、嫌な言葉ばかり吐いてしまいそうになる。


 梁瀬さんは言うだけ言って満足したのか、答えを聞かないまま去っていく。
あたしはその場に居たくなくて、来た道を走って戻る。


 部室のダイヤル式の鍵を開けて、扉を閉める。
その瞬間、足元からずるずるとへたりこんでしまう。
『嫌だ』
『離れて行かないで』
鈴木が梁瀬さんに向ける笑顔を見たくない、と思った。
そして、彼の隣に彼女がいることを想像した時に、湧きあがった気持ち。
今までは、友だちを失いたくないからだと思っていた。
違うんだ。
彼を失いたくない、だけじゃない。
梁瀬さんにも誰にも渡せない。
渡したくない。


 ―――あたし、鈴木が好きなんだ。




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