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● CATCH FIRE 19  ●

 あたしは、鈴木が好き。
自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
繰り返すたびに、さざ波が嵐になって押し寄せるような気持ちになる。
――知らないわけじゃなかった。
あたしの気持ちはずっと、ここにあった。
この胸の中に。
知らないふりをしていたかっただけだ。
あたしたちを分けていく『男女』という名の壁に。
今までの自分の言葉やしぐさを思い出すと、ものすごく恥ずかしくなった。
何か変なこと言ったりしなかったかな?
明日、どんな顔して顔合わせたらいいんだろう?


 翌日、展人があることを頼んできた。
「黒板消しといて」
「は? 何で?!」
「今日の日直、俺しかいないんだよ。 頼む!!」
女子で対になっている智穂は、風邪のため休みだ。
「わかった。 その代わり、五十鈴屋いすずやでアイスおごりね」
五十鈴屋はこのあたりに唯一あるお店屋さんで、西山中学の生徒なら一度は入ったことがある店だ。
文具から食べ物まで何でもある。
展人は交換条件をしぶしぶ受け入れた。
あたしは黒板消しを手に、前の時間の授業内容を消し始めた。
でも、上の方がどうしても届かない。
一生懸命手を伸ばす。
その時、黒板消しがひったくられた。
隣に立つ鈴木に奪われた、という方が正しいかもしれない。
「日直じゃないんだから無理するな」
顔を見られたくなくて、とっさにうつむく。
顔が赤いのばれたかな。
意識しすぎだってわかってる。
でも、落ち着けない。
心臓は怖いくらい速く打っている。


 ――男の子だったらよかった、そう思ったこともある。
けれど、今なら女の子に生まれたことを感謝できる。



 もう目をそらさない。
想いは、ここにある。

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