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● CATCH FIRE 20  ●

 翌日、智穂が回復して学校に出てきた。
見舞いには行ってみたものの家に入るのはまずいと思い、おばさんに預けたアイスはちゃんと受け取ったようだった。
「ハーゲンダッツがよかったなぁ」
そんなことを口にした智穂に、一緒に見舞いに行った世良がちゃちゃを入れる。
「あれ、瞳が赤垣くんにおごらせたやつだよ」
「え、何で?!」
「日直仕事、半分手伝わされたからね」
「お前、あれ葛西に持って行ったのかよ?」
展人が会話に入ってきた。
「うん」
「何だよ、わかってたらもっとましなの買ってやったのに」
あたしにはましなのじゃないのでいいってことか?
「言ってくれるわねぇ。 で、何か用があったんじゃないの?」
「そうだ、河内、くみちょーが呼んでたぞ。委員会のことだって言ってた」
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
あたしたちは手を振って、世良を職員室におくりだした。
「葛西、そしたら別の機会にまたおごるわ」
「え! いいよ、そんなの」
「俺がしけたもの、葛西にやっちゃったみたいで後味悪いからさ。 何か考えといて」
展人はそう言うと教室を出てC組の方向へ歩いていった。
教科書でも借りに行ったのかも。


 「そうだ、瞳、知ってる?」
「何を?」
「好きな人に告白する時に、手作りのプロミスリングを渡して告白するのが最近流行ってるんだって」
「へ? それって、うちの中学でってこと?」
「そうみたい。 まわり見てごらんよ」
周囲を見渡すと、教室のあちこちで頭をつきあわせて真剣な目つきで何かを編む女子の姿がある。
「瞳のは……自分で編んだんじゃないよね」
だから、あたしの不器用さを忘れたのか。
「うん、和紗が編んでくれたんだ」
「瞳は編まないの?」
智穂の真剣な目があたしを真正面から捉える。
何で?
あたしの気持ちはまだ誰にも言ってないのに。
もしかして、気づいてる?


 「もう知ってる……っていうか、気づいたよ。 おとといまで何にもなかったのに、今日学校来てみたら態度がおかしすぎるんだもん」
確かに意識しすぎかもしれない。
話ひとつするにしても話すことが頭の中から消えていっちゃったり、顔も見られない。
「で、好きなんでしょ? 鈴木くんのこと」
だめ押しされたみたいに聞かれる。
誰に聞かれるかわからないのに。
本人が教室にいないことを確認してから、うなずいた。
うなずくだけでも、ものすごい恥ずかしかった。
今、顔赤いかも。
「わかった。 もし何か判ったら教えるね」
『何か』って何だろう?
「何かってなに?」
「情報に決まってるでしょ。 何色が好きだとか好きな音楽とか食べ物とか教科とか血液型とかそういうことだよ」
そんなことまで情報交換するんだ。
女子って、すごいわ。
ってか、あたしも一応女子か。


 よく考えたら、好きな色とか知ってる。
昔もらったサイン帳の欄に書いてあったのを思い出す。
『好きな色 赤』
今、この胸に宿る炎と同じ色。

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