次の日、登校したら教室中がおかしなことになっていた。
男子も女子もみんな、あたしを見てはひそひそとささやき合っている。
最初は偶然かと思った。
それが机だロッカーだと教室内を移動するたびに続く。
三時間目の休み時間、あたしのいらだちは頂点に達した。
ツカツカと音が聞こえそうなほどに前に進み出て、黒板を思いっきり殴りつけた。
ガァン!! と鈍い音が教室中に響く。
「言いたいことあるなら、はっきり言いなさいよ!!」
みんなあたしを見ているけれど、誰も目を合わせようとはしない。
世良や智穂も佐々田も鈴木も。
浴びる視線には生気が感じられない。
まるで人形に見つめられている気分だ。
「瞳、落ち着け」
展人が声をかけてくる。
「あんたこそ、よく落ち着いていられるわね」
言葉を返した瞬間、どこからか声がした。
「やっぱり……」
「『やっぱり』ってどういうこと?」
あたしは声のした方向に問いかける。
けれど、返ってきたのは違う方向からだった。
「藤谷、赤垣とつき合ってるんだって?」
佐々田が口を開いた。
昨日のファンクラブの女子たちとのやりとり。
あれが誤解されて伝わっているのか。
あれだけ派手にやらかせば当然みんなに見られていただろうから、何か言われるとは思っていた。
『違う』と言いたいのに、頭は真っ白だ。
「違う」
展人が代わりに答えた。
「俺は藤谷に聞いてるんだけど?」
佐々田がきつい口調で、言い返す。
彼にしては珍しい。
怒っているのかもしれない。
あたしが世良や智穂に何も話していないこと。
女の子に絡まれるのは初めてじゃない。
大したことない、嵐が通りすぎるようなもの。
だから、話さなかった。
「どうなんだよ、藤谷?」
「違うよ。 あたし、あたしは……展人とはただのいとこだよ」
「それにしては、名前呼び捨てにしたりしてるよな?」
それは小さなころからなのに。
父方のいとこは展人と一歳になったばかりの夏美ちゃんしかいなくて、あたしたち姉妹と展人はほとんど一緒に育ってきたようなものだ。
「名前が呼び捨てなのは小さいころからずっとこうだから。 このクラスに来た時もそうだったじゃない。 世良だって、相川中のいとこさんのこと、呼び捨てだったわよ」
「河内は女同士だろ」
「じゃあ、呼び捨てをやめたら誤解されないの?」
言いながら、佐々田の隣に立つ鈴木を見た。
その目は暗い色を漂わせている。
――拒絶。
初めて見るその目を、あたしは悲しく見つめ返す。
自分はその壁の向こう側にいると思ってたのに。
第十一話(3)・終