展人に必要以上に関わるのはやめようと決めた。
それはクラスでも部活でも家でもだ。
クラスや家でも聞かれれば答えるって感じにすれば部活では所属する種目が違うから、きっと大丈夫だ。
クラスではあたしが展人を無視しているみたいに見えるようで、またコソコソと噂されている。
――知るもんか。
展人もちょっと困ればいい。
変な噂に巻き込まれたのは、元はと言えばあいつが悪いんだから。
げた箱の掃除を終えて教室に戻ろうと階段を登りかけた瞬間、後ろから肩を思い切り引っ張られる。
「な……」
振り返ろうとした瞬間、壁に押しつけられる。
「何、無視してんだよ」
声の主は展人だった。
「無視なんかしてないでしょ? 今、こうして話してるじゃない」
「……俺と噂になるのがそんなに嫌か?」
「そういう問題じゃないよ」
誰かと噂になることが嫌なんじゃない。
嘘に踊らされて、真実が語られないことが嫌なんだ。
「言いたいやつには、勝手に言わせておけばいい。 『人の噂も七十五日』って言うだろ」
「そんな簡単に言わないでよ!!」
展人よりもずっとつきあいの長い世良や鈴木たちの方が大事。
『特別』を知らなくても、そのくらいの分別はある。
「むきになって否定して歩くと、ますます本当だと思われるぞ」
痛いところを突いてくる。
「それに、俺は噂を本当にしてもいいと思ってるけどな」
「ちょ……冗談でしょ?」
「本気だって言ったら、どうする?」
視線がぶつかり合う。
――抱きしめられた。
抱きしめる腕は力強くて、逃げられない。
でも、この前八坂先輩にされたみたいに『怖い』とは感じなかった。
一方的にされているのに、どこか優しくて。
こういうのを女慣れしているっていうのかな。
左目の端に人影が映り、ハッと息をのむ。
――鈴木、だ。
展人の肩越しに目が合う。
目の暗さはこの前よりも増しているように思えた。
『見ないで』と叫んでしまいそうになる。
けれど、そうする前に鈴木は廊下を引き返して行った。
第十一話(4)・終