帰り際、世良を捕まえることができた。
「一緒に帰ってもいい?」
そう声をかけると、世良は心の底から驚いた顔をする。
「……いいけど」
校門のところで、智穂にも会うことができた。
三人とも無言のまま、歩き出す。
どう話を切り出そうか迷っていると、世良が話し出した。
「瞳、何か言いたいことがあるんでしょ?」
前を歩く智穂が振り返る。
あたしは切り出した。
「展人のことだけど」
顔をあげられなくて、ついうつむいてしまう。
うつむいてしまうということ自体、ただでさえ後ろめたいことがあるように思われてしまうのに。
「本当にみんなが思っているようなことは何もないから。
少なくとも、あたしにはいとこ以上の感情はない。
佐々田が言っていたのは、ファンクラブの女子とのたとえ話がどこかで違う風に伝わったんだと思う。
年が一緒だからっていうのもあるけど、あたしが展人とほとんど一緒にいるのは事実だし。
……二人にまで誤解されると思ってなくて、何も話してなくてごめん」
二人は顔を見合わせている。
智穂が、あたしの肩に手を置く。
「うつむかないでちゃんとあたしたちを見て言って。 そうしてくれたら信じる」
あたしは顔を上げる。
「信じて」
それしか言えなかった。
「信じるよ」
智穂が言うと、世良が隣でうなずく。
「もし好きな人がいたとして、瞳の性格からしてその人のことを何も周りに話さないなんてありえないもん」
智穂がそっと呟く。
「え?」
あたしと世良が聞き返す。
「瞳の感情の変化って昔からわかりやすいんだもの。 だてに10年近くも幼なじみやってないよ」
あたし、そんなにわかりやすいんだろうか?
ちょっとショックだ。
「さぁ、もう帰ろう。 冷えてきたよ」
世良がブラウスの袖を上下になでながら、言う。
衣替えが終わってからというもの、女子の制服はスカートにブラウス、リボンだけだ。
セーターかベストがあるといいのにな。
よかった、普通に話せて。
二人を失ってしまうかもしれないと思っていた。
何も話さずにいたかわりに。
佐々田が怒っていたように。
鈴木が『話したくない』と、拒絶したように。
でも、あきらめるわけにはいかない。
友だちをあきらめる。
それは友だちをやめることだから。
第十一話(7)・終