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● CATCH FIRE 8  ●




 翌日の放課後、部活に行こうとする佐々田と鈴木をつかまえる。
「ちょっと、いい?」
上を指差しながら、伝える。
屋上は危険だから開放されていないけど、その手前の踊り場なら充分話はできるはずだと考えた。

     

 確認の意味も込めて、あたしは話を切り出す。
「佐々田がこの間、怒ったのってあたしが誰にも何も話してなかったことにだよね?」
「あぁ。 もし赤垣とそういう関係になってるなら、俺たちはともかく、河内や葛西には話すだろうと思っていたからな」
「でも、世良たちにも何も話してなかった」
「友だちって言ったって俺たちはその程度か、って思ったよ」
目を伏せながら佐々田が答える。
鈴木は黙って聞いている。
「違うよ。 何もないから話さなかった」
「そうなんだよな。 そこから考え直すべきだった」
「本当にごめん。 ちゃんとみんなに話をしておくべきだったと思う」
「でも、ありえない話じゃないだろ」
急に、鈴木が口を開く。
その言葉にあたしも佐々田も動けなくなってしまう。
「ありえないってば。 あたしにその気がないんだから」




 「じゃあ、昨日、抱き合ってたのはどう説明する?」




 鈴木の突き刺さるような声で、佐々田があたしを見る。
この間、展人を責めるように怒っていたあの目で。
鈴木の肩をつかみ、問い返す。 
「おい、鈴木。 それ、どういうことだ?」
「どうもこうもない。 昨日、東階段のところで赤垣と抱き合ってたんだよ」
「違う!」
それしか言えない。
「違う、あれは、そんなんじゃない……」
「抱き合ってたってのは、本当なんだな?」
佐々田が聞き返してくる。
ゆっくりうなずく。
「そうか……。 藤谷、」
名前を呼ばれたあたしは、顔をあげる。
「赤垣と一緒に暮らしてるんだったよな? 
昨日まで二人が恋人同士じゃなかったとして、これからそうなる可能性はあるだろ?
現に赤垣はそういう感情を持って接しているように俺たちには見える。
男女の同い年のいとこがどれほど親しいものなのか、俺にはよくわからないけどそれでもそう思うよ。
鈴木が言ったことが本当なら、俺たちは信じたくても藤谷を信じきれない。
いつもどこかで『もしかして……』って思ってしまうんだ。
友だちなのに、いつも疑っている人間を大事に思っていけるか?」



 佐々田の言葉を聞きながら、あたしは『絶望』という言葉の意味を考えていた。
展人といてもいなくても、疑われ続けるということ。
この先あたしがどんなことを言おうとも、変わらないのだということ。
未来のことなんて、誰にもわからないのに。





 1年生の時に起こった、カンニング事件。
あのときはぬれぎぬだったけど、二人は何も言わずにあたしを信じてくれていた。
今、『赤垣展人』という男子を通しただけで、その信頼はやすやすと破られる。
それはあたしが女子だからなの?
ずっと男女関係なく、友だちでいたと思っていたのはあたしだけ?

     








                                                 
第十一話(8)・終
    
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