FAKE 6 明かされる真実
3月半ばの宮城県仙台市の空は、雪もなく穏やかに晴れていた。
3月初めに無事卒業した早百合たちの卒業旅行先は、北海道に決まった。
早百合が口にした「雪が見たい」という言葉が受け入れられた形だった。
札幌の雪まつりは終わっていたが、それなりに観光ができた。
途中盛岡で一泊して盛岡市内を観光した後、佳乃や他の友人たちはこのまま東京へ戻る。
仙台に降り立ったのは、早百合ひとりだ。
両親には仙台に寄ることは伝えていない。
予定では『明後日、佳乃たちと一緒に東京に戻る』のだ。
佳乃や友人たちには『仙台の祖母の家に寄ってから帰る』と伝えてある。
ずいぶんと綱渡りな計画だと、自分でも思う。
でも、こうでもしなければ真実を知ることができない。
この方法が正しいかなんて、どうでもいい。
自分の存在を確かめたいだけだ。
早百合は自分の戸籍が以前置かれていたという、太白区役所へ向かおうと地下鉄に乗り換えるため歩き出した。
自分が知らない街のはずなのに、どこか懐かしい気がする。
覚えていないだけで、両親とともにこうして街を歩いたこともあったのだろうか。
地下鉄を長町南という駅で降りて、地上に出る。
目の前が太白区役所だと案内板に書かれている。
早百合は自然と歩みを早める。
一階の戸籍課の窓口に、以前取った戸籍謄本を差し出した。
「これより前の戸籍謄本をください」
窓口の女性職員は早百合の手から戸籍謄本を持って行き、一枚の用紙を渡してきた。
「この用紙の『改正原戸籍』の欄に申請者である、あなたのお名前と必要事項を記入してください。 印鑑はお持ちですか?」
「はい、あります」
「記入台は後ろになります」
この薄い用紙に記入すれば、真実がわかる。
自分の名前と住所と連絡先の電話番号、戸籍の筆頭者である父の名前を書き込む。
両親との続柄を『長女』と書いてしまいそうになる。
『長』の字を二重線で消して、『二女』と書き直した。
申請書を窓口に提出し、しばらくすると早百合の名前が呼ばれる。
「宮本早百合さん、本日は身分証明書はお持ちですか?」
身分証明書と言えそうなのは生徒手帳だけだが、それでも大丈夫だろうか?
「生徒手帳しかないですが、大丈夫ですか?」
「顔写真がついていれば大丈夫ですよ」
早百合はバッグから生徒手帳を女性職員に手渡す。
女性職員は生徒手帳の写真と早百合の顔を数回見比べ、生年月日の書かれた欄を指でサッとなぞる。
そんな数秒の確認作業の後、生徒手帳は早百合の手に戻された。
「ありがとうございました。こちらがお客様の『改正原戸籍』になります。封筒がご入用でしたら右手にご準備がございます」
「ありがとうございます」
この改正原戸籍謄本は以前取った戸籍謄本と同じく両親の名前や生年月日、いつ結婚したのかが記載されていた。
そこまでは何も違いがない。
しかし、その隣の欄には大きく名前の上からバツ印がついている。
名前は『早百合』、続柄は『長女』、生年月日は『昭和五拾八年八月九日』。
そして『昭和五拾八年八月九日仙台市にて出生同月拾三日父届出入籍』の後に『平成元年拾二月拾日午後拾時参拾分仙台市太白区で死亡同月拾五日親族宮本誠一郎届出』。
宮本誠一郎は父の名前だ。
早百合が知りたかった真実はすべて、見つかった。
呆然としていると携帯電話が鳴っている。
取り出してみると、着信相手は父だった。
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