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● BE THERE 11  ●

 気がついたら、保健室のベッドの上だった。
「あら、気がついた?」
保健の桂木先生が、カーテンを開ける。
「あたし……どうして」
「部活に行く途中で倒れたのよ」
じょじょに記憶が戻ってくる。
八坂先輩に告白されて、振って……迫られて、怖くなって、泣いて。
あれはやっぱり迫られた、と思っていいんだろうか。
あのまま声をあげていなかったなら、と思うとぞっとする。
「熱はないのよ。 でも、顔色悪いわね」
「最近、考え事が多くて……」
進路のこと、陸上のこと。そして、今日、新たに加わった悩み。
「もうちょっと寝てていいわよ」
先生の言葉に目を閉じかける。
「いま、何時ですか?」
「五時になるところよ。あの子たち、部活終わったら迎えに来るって言ってたわ」
「あの子たちって……」
「あなたのこと連れてきた二人のこと」
あぁ、そうだった。
展人と鈴木の前で倒れたんだ。



 うとうとしていると、保健室の扉の開く音で目が覚める。
「先生、藤谷さんの荷物持ってきました」
やって来たのは世良だと声でわかる。
「じゃあ、そろそろ起こしてあげて。 一番窓際のベッドにいるから」
「はい」
世良がカーテンを開ける前に、あたしは体を起こす。
「瞳、起き……あ、起きてるね」
「うん」
「もうすぐ赤垣くんと鈴木が来るから、それまで座ってなよ」
言い終わらないうちに展人と鈴木が入ってくる。
「瞳、帰るぞ」
「立てるか?」
立ち上がろうとするあたしに鈴木が手を伸ばしてくる。
とっさに先輩のことを思い出し、その手を取ることができなかった。
鈴木や展人はあの人とは違うのに。
「大丈夫だから」
伸ばされた手を拒否し、世良の肩をつかむ。


    

 先生はお母さんに連絡を入れてくれていた。
すでに校門前にはお母さんと和紗の乗ったタクシーが横づけされていた。
 お母さんは車の免許を持っていないから、迎えに来るとすればこの手段しかない。
なぜ和紗まで乗っているのか聞きたかったが、頭が上手く働かない。
「おそらく、寝不足からくる貧血と思われます。 もし明日出てこれないようでしたら、担任の先生にご連絡お願いします」
乗り込む前に桂木先生がお母さんに告げる。
「わかりました。 お手数をおかけいたしました」
後ろの座席の真ん中に座らされたあたしは、外にいる世良と鈴木に小さく手を振った。
お母さんを助手席に乗せて、タクシーが発車した。

     

     


                                             
第十話(11)・終

  
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