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● BE THERE 13  ●

 よく眠ったら、熱はすっかり下がった。
知恵熱だったんだろう、と家族みんなにそろって笑われた。
何もみんなで笑うことないだろう。
「慣れない頭使うからだよ」
そう呟いてあたしの頭を撫でるお姉ちゃんの手はいつもより優しく感じる。
お姉ちゃんはすっきりした顔をしていた。
何となく、昨日の話を誰かに話したかったのかな、と思った。


     

 その日の朝のホームルームで、くみちょーが言った。
「今週の木曜日から来週の金曜日まで、二者面談に入ります。 男子から名簿順で5人ずつになります。 前に予定表を貼っておくので自分の日に都合つかない人は申し出てください」
黒板の脇の小さな掲示板に、B5のわら版紙の日程表が貼られた。
ホームルームの後の休み時間に、クラスのみんながよってたかってそれを見る。
あたしの番は来週の木曜日。
「瞳は高校決めたの?」
日程表を見ながら、世良が尋ねてきた。
「うん。決めたよ」
前を見たまま、答える。
「どこ?」
「内緒」
「あたしたちにさんざん聞いておいて、自分のは隠すなんてずるいよ」
ねぇ、と隣にいた智穂に同意を求めている。
「でも、そのうちわかるでしょ」
智穂はそう言って掲示板の前から立ち去った。



 ようやくカバンから進路調査票を引っぱり出す。
大事にノートに挟んでいたけど、結構端が折れている。
千寿西高には行かない、という方針をあたしなりに打ち出した。
お姉ちゃんの特別な人に興味がないわけじゃないけど、それだけのためにわざわざ飛び込めない。
あたしはお姉ちゃんじゃないから。
きっと同じ高校に入ってしまったなら、比べられるだろうし。
お姉ちゃんは高校でも生徒会に入る予定だという。
それはお姉ちゃん自身が望み、選んだ道だ。
――あたしには、あたしの道がある。
そんなことを思いながら、自分の名前を書く。
『第一志望』の欄に大きく、『千寿西高以外の共学』と書き込んだ。
『第二志望』には『陸上部の強い高校』と。
『共学』とわざわざ書いたのは、鈴木の言葉を意識した表現だ。
同じ高校に行きたい。
そう思ってくれた大事な友だちを突き離す理由は、どこにもない。
『陸上部の強い高校』を入れたのもちゃんと理由がある。
このまま高校に進んでも、走っていたいという思いとともに考えていたこと。
陸上は個人競技だから、強い学校に入ったからといって強くなれる保証があるわけじゃない。
だけど、自分の可能性を試してみたいのだ。
どこまで行けるのかを。
恵庭冴良というライバルを見つけたからこそ、知ることができた気持ち。




 こんな決め方で進路を決めるなんて、あたしぐらいだろう。
きっと進路調査票を見たら、絶対にふざけていると思われる。
あたしが担任だったとしてもそう思う。
でも、今見つけられるせいいっぱいなんだ。



      





                                      
第十話(13)・終

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