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● BE THERE 2  ●

三日後の日曜日、展人ひろとがうちに引っ越してきた。
といっても、荷物はとても少なかった。
「これだけなの?」
ダンボール五箱分と布団袋を見て、あたしたちは声をあげた。
もっと大荷物が来ると思っていただけに、ひょうし抜けした。
一日がかりになると思っていたのに、部活休んだ意味がなくなってしまった。
「あぁ、これだけだ。 いつか戻るつもりでいるからこれでいいんだ」
そう言うと、展人は笑った。
おじさんたちもいなくなった展人の家は貸家にするらしいから、おじさんたちが戻ってくればまた同じ家に住むことができるってお父さんが言ってた。
あたしたちはその荷物を、昔おじいちゃんが使っていた一階の和室に運んだ。
今日から一緒に暮らすんだ。
急に実感がわいてきた。
同時に何だか落ち着かない感じが胸がいっぱいになる。     
「先輩から制服もらえるかどうか、聞いてみるからね。 あと1年なのに買ったらもったいないもんね」
「ありがとう、水樹さん」
展人のいた中原中学校は学ランだから、西山中学の制服と違う。
あたしたちが転校した時は小学生だったし、同じ市内だったから学校が変わった以外はたいした影響はなかった。
今度は隣の千寿市からの転校だから、当然、教科書も制服も変わる。
教科書は学校から配布されるとしても、そうか、そんな面倒なこともあるんだ。



 さっきの落ち着かない感じの正体がわかった。
同世代の男の子がいつも家にいる。
あたしが生まれてからずっと、そういう状態になったことがないんだ。
うちで男の人と言えば、死んじゃったおじいちゃんかお父さんぐらいだから。
だから、違和感が抜けなかったんだ。




「明日、おばさんも一緒に学校に行きますからね」
久しぶりにお姉ちゃんもお父さんもそろった夕飯の時、お母さんが展人に言った。
「おばさん、一人で行けますよ」
「一人で行くって言っても転入手続きの後に学校行ってないし、道がわからないでしょう? 瞳は朝練で早く行ってしまうし、それとも和紗と一緒に行く?」
展人は和紗をちらりと見る。
しばらくしてから、ゆっくりと答えた。
「それじゃ、おばさん、一緒にお願いします」
「わかりました。 この家に来たからには、うちの子たちと同じように扱います。 覚悟してちょうだい」
「はい」
展人が苦笑いまじりに返事をする。
「遠慮は無用よ。この家から高校までは出てもらうつもりでいますからね」
高校、という響きに、ドキリ、とする。
夏休み前には高校進学のための二者面談が待っている。
あと一年半もしたら、みんなと嫌でも離れなきゃいけない日が来る。
世良や佐々田、鈴木、陸上部のみんな。
同じ高校に進む子もたぶん、いるだろう。
考えたくない、でも、あっという間だ。
     


 「展人、転入するクラスは決まったの?」
「あぁ。決まったよ」
「何組なの?」
あたしはそればかりが気になっていた。
「明日になれば、嫌でもわかるだろ」
展人はそれ以上、教えてくれなかった。
早く知りたいから聞いたのに、展人のけち。
     

             


                                                   
第十話(2)・終

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