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● BE THERE 3  ●

 翌日の2年B組は、『転校生が来るらしい』との話題でもちきりだった。
「瞳、聞いた?」
「うん。知ってるよ」
やってくる転校生がいとこであることは黙っておいた。
展人が転入するのが本当にうちのクラスなのか、まだわからないし。
「どんな子かなぁ?」
「楽しみだな」
世良や佐々田たちの言葉を背中に聞きながら、教室を出る。
「鈴木、日誌取ってくるね」
「おぅ、まかせた」
今日の日直はあたしと鈴木だ。
職員室に行って担任のくみちょーから学級日誌を受け取るのは、日直の朝の義務だ。



 職員室で、くみちょーに声をかける。
「七尾先生、日誌ください」
さすがに他の先生たちの前で『くみちょー』とは呼べないので、名字で担任を呼ぶ。
「はい」
くみちょーは机の横に積まれたプリントと一緒に、日誌を渡してきた。
「それ、教室に行ったら配っておいてね」
「何ですか、これ?」
「進路希望の用紙よ」
そろそろ来るとわかっていても、何となく引いてしまう。
ついに来たか、って感じ。
「今日、転校生が来るって聞きましたけど」
「そうよ。 朝のホームルームで紹介します。 一気に二人増えるけど藤谷さんも仲良くしてあげてね」
やっぱり展人が2年B組に入ることは決定らしい。
でも今、『二人』って言わなかった?
「先生、『二人』って言いました?」
「えぇ、二人よ」
くみちょーがそう答えたところで、予鈴の鐘が鳴る。
「詳しいことは後でね。 藤谷さん、教室に戻って」
「はい」
プリントの束と日誌を抱えて、2年B組へと急ぐ。



 進路希望のプリントをちょうど配り終えたところに、くみちょーと転校生二人が教室に入ってきた。
先生が入ってきても、2年B組が騒がしいのは毎朝のことだ。
「起立!」
教壇にくみちょーが立ったのを見て、鈴木が声がけをした。
各時間ごとの号令の声がけも日直の仕事だ。
自分の席についてない人たちが、ガタガタとはでな音を立てながら自分の席に向かって移動する。
「注目! 礼!」
朝のあいさつを交わす。
「着席!」
いっせいに席についた。
みんなの視線は、くみちょーと一緒に教室に入ってきた二人の転校生にくぎづけだ。
制服が自分たちと違うということに加えて、二人も来るとはみんな思っていなかったのだろう。
「……今日は欠席、なし、ね」
ぐるりと教室全体を見渡して欠席を確認した後、転校生たちは教壇に登らされる。
先生が黒板に二人の名前を大きく書いた。
「今日からみんなの仲間になる二人を紹介します。
赤垣展人あかがきひろとくんと葛西智穂かさいちほさんです。
二人から自己紹介をしてもらいます。それでは、赤垣君から」
「千寿市立中原中学校から来ました、赤垣展人あかがきひろとです。よろしくお願いします」
「南町中学校から来ました、葛西智穂かさいちほです。よろしくお願いします」
展人のことはもう知っているから、どうでもよかった。
あたしとのことを言うのか、と思ってちょっと敏感になってしまっていたけれど、言わなかったので安心する。
みんなには落ち着いてからバレた方がいい、と何となく思った。
そして女の子が紹介された瞬間、鮮やかによみがえる記憶のひとすじがあった。




小学四年の冬、別れの日。
四階の教室の窓から、あたしに向かって叫んでいた幼なじみ。
――――幼なじみの名は、葛西智穂。




 『葛西かさい』なんて、そうそうある名字じゃない。
まして下の名前までそろっているなんて、これで他人だとしたらできすぎだ。
絶対、後で本人に確認しよう。
あたしは強く思った。

    


     

                                 
第十話(3)・終

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