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● BE THERE 5  ●

 2年B組の一日は、二人の転入生を受け入れたこと以外はいつもどおりに過ぎていった。
掃除を終えて、教室に残っているあたしを見つけて展人が声をかけてきた。
「瞳、部活行くんだろ? 連れて行けよ」
あたしはその生意気な言い方にムッとして、言い返す。
「何であたしが連れて行かなきゃなんないのよ? 自分で勝手に行けば?」
学級日誌、まだ書き終わってない。
これ書き終わらなきゃ部活に行けないんだから。
「右も左もわかんない転校生、かつ、いとこ様によく言うよ」
あたしより二ヶ月も遅く生まれたくせに、何が『いとこ様』だ。
「男子に聞けば教えてくれるでしょ? それに必要以上にあたしに話しかけないで」
変な噂になったら困る。
今日の朝のクラスの様子を見て、そう感じた。
「ふぅん。別にいいんじゃねぇ? 言いたいやつには言わせろよ」
「そういう問題じゃないんだよ」
こういうことで女子も男子も異様に敏感に反応するのを知らないのか。
現に今日一日、展人に近づきたい女子ににらまれっぱなしだったのに。
もう無駄にケンカ売られたくないんだってば。
「わかった」
展人はカバンを持って教室を出て行った。
誰かに教えてもらって自分で行こう、と決めたみたいだ。



 「……何か、強烈だね。赤垣あかがきくんって」
展人がいなくなった後、智穂が言う。
「いや、強烈っていうか……なんて言うのか、誰かに見せつけてるみたいに感じたよ」
隣の席に座る世良が展人をそう評価した。
「見せつける、って、誰に?」
「そこまではわかんないけど、みんな『一緒に暮らしてる』発言でかなり驚いたと思うよ」
「そうだよねぇ。 いとこってことだけ言えばいいはずなのに、そんなことまで言っちゃうなんて何ていうか……普通じゃないっていうか」
「あれはあたしもびっくりしたわ」
二人が何やかんやと話している間に、日誌を書き終える。
職員室に寄って日誌をくみちょーに渡して、部活に行こうとあたしたち三人は廊下を歩いていた。
「葛西さんは前の学校では何部だったの?」
「美術部にいたんだ」
「そっかぁ。じゃあ、すぐ美術室行く?」
「ううん。瞳や世良ちゃんの走るところ、見てみたいから一緒に行くよ」
「え」
あたしも世良も固まった。
世良は急に名前を呼ばれて、あせっている。
「今、『世良ちゃん』って言った?」
「うん。 言ったけど、だめだった?」
「ちゃん付けしなくていいよ。……『智穂』って呼んでいい?」
「うん」
ほほえむ智穂の顔は昔のままで、あたしは安心した。
その時のあたしたち三人は昔からの友だちだったみたいに自然だった。




 部室に行くと、展人が奥に座っている。
「何で、ここにいるのよ!!」
入口であたしは叫んだ。
「当然、入部希望だからに決まってるだろ」
「決まってるって……」
「俺は前の学校でも陸上部だ。 言わなかったか?」
「聞いてない!!」
あたしはぶんぶんと首を横に振る。
両親も叔父さんもおばさんもそんなこと言ってなかった。
「お前が聞いていようがいなかろうが、そういうことだ。 よろしくな」






―――こういうことは、前もって心の準備が欲しい。
あたしは心の底から思った。
   



   



                                      
第十話(5)・終
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