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● BE THERE 9  ●

 当然のように隣に立っている展人に、将来のことを聞いてみた。
「千寿東高校の英語科に行く」
あたしの顔を見て、展人は言う。
「何て顔してんだ」
だから、言いながらあたしの顔を触るな。
「意外すぎただけよ」
あまりにも当たり前のように言うから、意外すぎて声も出なかった。
転入してきてからバタバタしてて、どんな教科が得意とかそういう話もしていなかった。
「翻訳か通訳やりたいから」
そう言いながら本棚から一冊の本を抜き取る。
表紙に英語が書いてあるところをみると、海外の翻訳本だろう。
それにしても意外だ。
県内に英語科があるのは千寿東高校と私立の東条学院のみという、とても狭き門だ。
世良たちのいる机に行ってる、と言い残し、展人は去る。



 本棚の間を歩きながらとりとめなく眺めていると、歴史のところに鈴木がいた。
本に夢中で下を向いたままの彼にこっそり近寄る。
「藤谷」
すぐに気づかれる。
上ばきに名前入ってるもんね。
「歴史、好きなの?」
「あぁ、うん」
鈴木が手にした本を棚に戻す。
何年も近くにいたのに、知らなかった。
友だちだからって全部わかるわけじゃないんだ。
「藤谷は、何が好き?」
そう言われて考える。
体を動かすこと。
あぁ、もうひとつあった。
本を読むこと。

   


昔は国語辞典を読んでいたけど、転校してから本を読まなくなってた。
――――どうして、忘れていたんだろう。     



「鈴木は、どこの学校行くか決めてるの?」
「歴史が好きなのを生かせる仕事につけたら、とは思うけど……まだはっきり決めてない。 藤谷は?」
鈴木は困ったように笑いながら、聞き返してきた。
あたしは何となく答えにくくて、本の背表紙を目で追っている。
「まだ決めてないよ」
「何だ、残念」
どういう意味?
鈴木の方を向くと、彼はあたしを見つめている。
視線がぶつかり合う。
目をそらしたい、でも、そらせない。
このひと、こんな顔するんだ。
――やばい。
何がやばいのかよくわからないけど、ここから逃げ出したくなる。
時間がゆっくり流れてるみたい。
「同じ高校行けたら、と思ってるよ」
そう言った鈴木の顔はあたしの知らない、『男の子』の顔をしていた。

     







                                   
第十話(9)・終

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