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● TROUBLE MAKER(2)  ●

ゆっくりしている暇はない。
腕時計を外すと、袴の紐に通す。
このまま置いていったのでは、先に2年生たちが戻って来た時に何をされるか判らない。
はたから見れば奇妙だろうが、構っていられない。
防具をつければ充分隠れる位置だ。
壊れないことだけを祈ろう。
防具と竹刀を持って、体育館へと走る。
袴を持ち上げなくてはいけないのが、大変だ。



 準備体操と五種類の素振りでウォーミングアップをする。
素足に床の冷たさがしみわたる。
乱取り稽古では2年生と組むことになった。
3年生が一人、2年生が八人、1年生があたしを含めて三人しかいないとあっては、必然的に2年生と組むことも多くなってしまう。
           



 幸い、2年の先輩たちにからまれることもなく練習は終わった。
しかし先輩たちが引退するまで、おびえながら練習しなくてはいけないのだろうか?
最悪でも、来年の六月まで。
もし、市で上位に入れば県大会に進むことになるから七月まで。
それを思うと、とても気持ちが沈んでいく。
部活動の内容としては気に入っているので、なおさらだ。


   
 数日後、授業と掃除を終えて世良と一緒に部活動へ急いでいた。
向かう先は部室ではなくあらかじめ指定された3年E組の教室だ。
何ヶ月かに一回のミーティングの日であるからだ。
もう始まっているらしく、教室の中から部長の声がする。
遅れて行ったので、後ろから静かに入ることにした。
後ろの扉が開かれたことで、何人かの先輩たちが振り返る。
特にあたしをにらみつけているのは、松浦先輩だ。
この前といい、あたし、本当に先輩に何かしたっけ?
あたしが来年、先輩になるなら、こういう先輩にはなりたくないなぁ。
「遅れてすいません」
世良と一緒に部長に謝ると、落ち着いた声で言われる。
「早く席について下さい」
ミーティングは通常の連絡事項のみであっという間に終わった。



 部室へ行こうと席を立つと松浦先輩に声をかけられる。
「藤谷、あんたの髪型は一年生はまだできないの。河内、あんたもだよ。あ、若生わこうはそのままでいいよ」
一瞬、何を言われているのか理解できなかった。
他の先輩たちはその言葉に顔を見合わせて、互いにうなずき合っている。
先輩たちにOKを出された同級生の若生朝子わこうあさこは、先に部室へ戻っていいのか判らずにオロオロしている。
「はい?」
まったく理解不能だ。
世良が再び尋ねる。
「意味がよく判らなかったので、もう一度言ってもらえますか?」
「だからぁー、あんたたち二人とも髪に黒以外のゴム使ったり、二つ分けしたり三つ編みにしてるでしょ? それは一年生はやっちゃダメなの。明日から黒ゴム使って一つにくくり直して来な、って言ってんのよ。わかった?」
「な……」
ふたりで絶句した。
そんなこと、初耳だ。

                  

                                                 
第四話(2)・終

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