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● 初嵐 15  ●

 「カラーン」という澄んだ音の後で、スタンドから「あぁ」というため息のような声が聞こえた。
男子走高跳の選手が足にポールを引っ掛けたみたいだった。
ポールが落ちた音があたしのいる第二コーナーまではっきりと聞こえたのは、男子リレーの始まる直前だった。
周囲は静まり返っていて、それで音がよけいに響いてきたんだと思う。
「誰よりも高く跳ぶ」と言った展人は170を跳べたんだろうか。
自分の記録よりも人の結果が気になるなんて、珍しい。
展人が西山中学に転校してきてから初めての公式な大会だからだろうか。


 あたしは第二走者がバトンパスをした瞬間から、第三走者が第四走者にバトンを渡すまでの時間を計測する。
計測中は声を出して応援しちゃいけない。
自分の中学の応援に気をとられて、記録が取れませんでしたなんて言えないし。


 南町中学だけでなく相川中学もリレーに二チーム出してきたので、三校五組で競うことになった。
西山中学の青色は第4コースに入ったようだ。
400Mリレーはコースの数字が大きくなればなるほど、スタート位置が変わる。
校内陸上大会ではみんな横並びだったけど、陸上競技の大会ではこうみたい。
何となくは知ってたけど、県大会に行ったときにちゃんと展人から教わった。
第4コースだとだいぶ外側になる。
「位置について」
競技委員の声があがる。
あたしもちゃんと準備しないと。
ストップウォッチに貼られた『2コース・南町A』のシールを見つめる。
南町中学は緑色のユニフォームで、胸と腰に『A』が入っている人を見ればいい。
「用意、」
ピストルが鳴る。
応援の声がうるさいくらいに耳に届く。
来た!
南町中学Aチームの第一走者と第二走者がバトンパスを終えた瞬間をしっかりとらえることができた。
第一走者の走り方は足の開き方が大きくて、驚いてしまった。
ああいう風にすれば、速く走れるのかな?
それとも体がそれなりに大きくないとダメなのかな?
少し遅れて園部くんが板河くんにバトンパスして行った。
あとは第二走者が第三走者に渡すのを確認できれば大丈夫だ。
今だ!
力強く目の前を駆け抜けて行った第二走者から第三走者にバトンが渡る。
あたしはストップウォッチを止めた。
11秒92。
男子の100Mってこんなに速かったっけ?
普通に100Mを走るのとリレーはまた違うのかな?


 スタンドからの叫び声であたしは顔をあげる。
トラックで転んだ人がいる。
目に飛び込んでくる、青のユニフォームはうちの中学だけ。
第三走者は重野くんだ。
自分一人で転んだみたいで、周りにはすでに人がいない。
重野くんはバトンを拾ってまた走り出し、第四走者でアンカーの鈴木にバトンを渡した。
鈴木はバトンを受け取ると誰もいないトラックをゴールに向かって走り抜けた。


 記録は53秒26だったと、後で聞いた。
展人は175センチを二回失敗しながらも、三回目で跳んだとも。
跳ぶ姿はじっくり見られなかったけど、それは県大会の楽しみにしよう。


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