モドル | ススム | モクジ

● 誰のために、何のために 1  ●

 相川・南町中学との三校合同記録会は初めてで慣れないことばかりだった。
でも、今回はともかく、いつまでも初めてだからと甘えてはいられないとも思う。
今年はそれぞれ学校ごとって感じだったけど、来年は二校と何か協力できるようにしたらいいんじゃないだろうか。

 
 転んで最下位になった男子のリレー。
女子のリレーもバトンパスがうまく行かなくて、アンカーのあたしは三位でゴールに入った。
このへんの課題は残ったけど、個人としては走り方を変えたあたし以外記録があがっていたみたいだ。
そのときのあたしは、もう一人記録が今ひとつだった人のことを思い出せなかった。


 閉会式が終わると、山内先生と桂木先生が来た時のように車で荷物を運んで帰ってくれる。
「また明日ね」
「じゃあな、気をつけて帰れよ」
みんなそれぞれ自分の家の方向に向かって、歩いたり自転車に乗って帰って行く。
あたしはいつもなら富士見が丘までなら自転車なんだけど、今日は歩きだ。
自転車がパンクしてたのに、ちっとも気づかなかった。
展人と世良、そして鈴木と一緒に歩く。
肩のリュックが何だか重く感じるのは、疲れているからだろうか。
明日も学校なのに、やだなぁ。
「……何か、今日はやたらと疲れた気がする」
そう言ったのは鈴木だ。
「黒川くんのこと、ごめんね」
鈴木はめったに怒らない。
なのに、あんな風に人前で怒鳴らせてしまった。
「あれは藤谷が謝ることじゃないだろ」
「そうよ。 勝手に勘違いして突っ掛かってきたのは黒川くんなんだから」
「でも……」
あたしが言葉をつなごうとした瞬間、展人が言った。
「瞳、お前、何でもかんでもしょいこむのな。 それってくせか?」
「え」
展人に言われても、あたしには何のことかよくわからない。
「今、『でも、黒川くんにそう思わせたのはあたしだから』とか考えてただろ」
「何でわかったの?」
あたしは自分の考えが頭の中から読まれたみたいで、気味が悪くなる。
「それくらい俺でもわかるさ。 だいたい黒川のことは葛西と黒川が二人で考えることであって、お前が考えることじゃないだろ? 葛西が黒川のことで困って何か手や知恵を貸して欲しいって言ってきた時には、お前や河内が一緒に考えてやればいいんじゃないのか? それが友だちってやつじゃないのか? 葛西が『男子の意見も聞きたい』っていうなら俺らが手を貸すし」
そういうものなのかな?
「あんたたちの時だって、あたしたちは何もしなかったじゃん」
世良に言われて、思い出す。
そうか、あたしと鈴木の時も智穂や世良は「応援する」とは言ってくれたけどそれ以上の手出しはなかった。
智穂のこと、あたしもまずは見守ろう。
それでどうしてもダメな時はこの前みたいに、泣く智穂をなだめたり話を聞けば少しは何かが変わるかもしれない。


 「それにしても黒川、堂々と言いすぎだよなぁ。 あれじゃ明らかにバレバレだろ」
展人が言った。
というか、男子は以前から黒川くんが智穂のことを好きだって知っているんだろうか?
「ねぇねぇ、そういえば黒川くんが前から智穂のことが好きなのは男子は知ってたの?」
「俺は何となく気づいてた」
鈴木が答える。
「ああいうのは隠しててもわかるもんなんだよ」
展人が付け足した。
「そうなの?」
「そうなんだ?」
あたしと世良は声をあげる。
女子はわりとわかりやすいと思うけど、男子もなんだ。


 「何を隠そう、こいつはお前の写真、つき合う前から生徒手帳に入れてる。 見ないふりしてたけど、こっちも男子の間ではバレてた」
展人が鈴木の右肩を軽くたたきながら言う。
「え?」
「赤垣っ!!」
「え、鈴木、そうなの? 見せてよ、いつ撮ったやつ? 中学になってから? それとも小学校の時の?」
「河内は黙っててくれ!」
真っ赤になっている鈴木と、面白がっていろいろ聞き出そうとする世良。
三人の目の前で、ついていけずに混乱するあたしがいる。
つき合う前からって。
……何か、すごい嬉しい。


 男子も女子とそう変わらない。
特に好きな人がいる時の行動は、ってことか。

 
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2010 Ai Sunahara All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-