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● 初嵐 4  ●

 とりあえず、あたしと世良は智穂が告白されたのを知らないことにしようと決めた。
そうしないと黒川くんへの態度がぎくしゃくしてしまう気がした。
黒川くんはあたしと世良が智穂の友だちだって知ってるし、あたしたちが知ってるとなれば展人や鈴木にも筒抜けになる可能性があるのはわかってると思う。
いちいち言いふらしたりはしないけどね。


 男子の仲まであたしたちはどうこう言えない。
第一、『誰々に告白した』なんて話を友だちでもない男子同士でするのかどうかも知らない。
けど、合同記録会と市内駅伝大会があるのにこういうのでごたごたして欲しくない。


 翌日は文化祭の片付けだった。
教室に集合して出席を取ってから、部活動や委員会で使った教室に向かうことになってる。
2年B組の扉を開けたら、教室の隅に置かれたままの舞台衣装や小道具、背景作りに使ったダンボールや木材が目に入る。
本当に、文化祭終わっちゃったんだな。
陸上部ばっかりでクラスの方にはほとんど手伝ってなかったのに、そう思うと何だか寂しかった。
「藤谷、おはよう」
後ろから声をかけられて振り返ると、鈴木と佐々田が立っていた。
「おはよう」
やっぱり鈴木の顔がうまく見られない。
どうしても唇を意識してしまう。
「そういや、お前ら、二人で登校はしないのか?」
佐々田が聞いてくる。
あたしたちは智穂や佐々田と時間が合わない時とか、世良が雅ちゃんを迎えに行く時なんかは時々二人で帰ってる。
展人はわかってて、一人で先に帰っちゃうこともあるみたいだ。
でも、朝はあたしが世良と来るから、鈴木とは別だ。
朝練がない日は智穂も一緒に三人で来る。
「……一緒のほうがいい?」
鈴木に聞く。
「またあとで話そう。 佐々田に聞かせるのは何か嫌だ」
「おい、それどういう意味だよ」
佐々田が鈴木の言葉にかみつく。
「そのままの意味だよ」
鈴木は笑いながら、一足先に教室へ入っていった。
「なぁ、藤谷」
「何?」
残された佐々田があたしに聞いてくる。
「あいつ、何かあったのか?」
「えっ、どうして?」
「や、うまく言えないんだけど……ちょっといつもとは違う感じがしたからさ。 昨日も浮かれてるかと思えばすぐ落ち込んでたりしたし、赤垣も『絶対に何かあったと思う』って言ってた」
やっぱり展人は昨日、鈴木たちと一緒だったんだ。
思い当たるのはおとといのあのキスしかないんだけど、それをあたしから佐々田に言えるはずがなかった。

 
 あたしは鈴木を好きになって初めて、友だちに言いたくても言えないことがあるって知った。
鈴木が佐々田や展人に隠したように、あたしも世良と智穂にあのキスのことを言ってない。
恥ずかしいのもあるけど、大好きな人と作った二人だけの秘密だから言えない。
友だちでいることよりも彼氏彼女でいることの方がずっと難しい気がする。
友だちに見せる顔と彼氏に見せる顔ってやっぱり違うのかな?

そんなことをあたしは思った。
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