私は次の日、彼女と決着をつけることにした。
長引かせるのもよくないし、心がズキズキと痛むのを止めたかった。
――なんで、痛いの?
私は悪いことなんて何もしてないのに。
対策は何もない。
けれど、簡単に彼女、藤谷さんたちに得意種目を渡したくない。
どうしたらいいんだろう。
結局、眠ったのかよくわからないまま朝が来た。
考えすぎて頭の中にぼんやりと霧がかかったみたいだ。
それでも普通の顔をしてごはんを食べて、学校へ行くしたくをした。
私が誰かをこんなに嫌っているなんて、両親や幼い弟や妹に知られたくない。
こんなに自分の心が真っ黒だなんて。
教室に入ると人はまだちらほらいる程度だ。
私はぼんやりと校庭に目をやった。
そこには朝練をしている運動部の人たちの姿があった。
校庭の隅っこで一つのかたまりがわやわやと動いている。
男子も女子もいるようだし、あれが陸上部だろうか。
「彩」
窓から目を離し、呼ばれた方を見る。
私を『彩花』ではなく『彩』と呼ぶのは、朝子しかいない。
「朝子」
朝子の目に怒りが見える。
どうして怒っているんだろう?
「ちょっと来て」
「教室ではだめなの?」
「いいから」
朝子に引っ張られるようにして教室を出る。
私が何かしでかしたんだろうか?
引っ張ってこられたのは、東階段から屋上につながる踊り場だった。
「彩、あなた、校内陸上大会の選手決めるのにあの二人の邪魔したって本当なの?」
ガン、と頭をなぐられたような衝撃が来た。
『あの二人』は言うまでもなく、藤谷さんと河内さんのことだろう。
でも、なんで朝子が知ってるの?
「ねぇ、本当なの?」
「……どうして、それ」
「昨日の帰りに彼女たちと同じ部活の子が話してるの聞いちゃったのよ」
「……そうなの」
「どうして? どうしてそんなことするの?」
朝子の問いかけに私はうまく答えられない。
「だって……あの人たちは……朝子を置き去りにしたじゃない!!」
私はそう叫ぶのがせいいっぱいだった。
彼女たちは去年まで、朝子と同じ剣道部にいた。
けれど、入部して数ヶ月もたたないうちに二人とも辞めてしまったのだ。
同級生が三人しかいない部活動で、一人取り残されたのが朝子だ。
朝子は私に「苦しい」とも「辛い」とも「寂しい」とも言わなかった。
言わずにひとり、先輩たちとの部活動に耐えた。
そして、彼女たちは今年になってからそろって陸上部に入部した。
――なんで笑っていられるの、朝子を置き去りにしたくせに!
部活動での二人を見て、私はかっと血が熱くなるのを感じた。
――許せない。
ゆるく握ったはずの手のひらは、いつの間にか固く握られていた。
彼女(3)・終