放課後、女子だけ教室に残って校内陸上大会の選手を決めることにした。
あまり個人的な理由でクラス全体に迷惑をかけられない。
担任の七尾先生は私たちにまかせるようなことを言ったが、私は言った。
「七尾先生もいてください」
私の気持ちは落ち着いてきていたが、暴走しないとも言えない。
止められる役が必要だ。
それは大人である先生にしかできないように思えた。
100Mと200M、400M以外の種目はじゃんけんやアミダくじで順調に決まっていった。
対策は何もない。
いや、彼女たちを知った今はもういらないのかもしれない。
それでも私は彼女と向き合わなくてはいけない。
私は対決に向かう言葉を口にした。
「私もずいぶん悩んだけれど、やはり陸上部だからって優先されるのはよくないと思うの」
これが私の出した結論だ。
彼女たちが強くないことはわかった、それでも当たり前のように権利をさらっていくことは受け入れられない。
「ちょっと待って。誰が『優先して欲しい』って言ったの? あたしたちはそんなこと言ってないと思うけど」
藤谷さんが反論する。
「あなたたち二人の言い方だと私にはそう聞こえたわ」
昨日までのとらえ方ならば、そう聞こえていた。
「委員長、あなたは校内陸上大会で勝ちたい?」
藤谷さんが私に尋ねる。
『勝ちたいか?』ですって?
勝ちたいに決まっているじゃない。
勝負を最初から負けたいと思ってやる人なんているわけない。
「勝ちたいわ」
『斎木彩花』個人の気持ちを捨てて、2年B組の委員長として私は答えた。
藤谷さんはまっすぐ私を見つめたあと、言った。
「委員長、取引をしましょう」
「取引?」
私は首をかしげた。
彼女はいったい何をしようというのだろう?
「『取引』って言葉が悪ければ、『賭け』でもいいわ。 ―――あたしたち陸上部員は2年B組を優勝させてみせる。 そのかわり、あたしたちが自分たちの専門種目に出ることを認めて欲しいの。
あたしたちは陸上部員ですもの。できないわけがないわ」
自分の思うことを手にしようとする彼女の姿は自信に満ちあふれていた。
私はつぶやいた。
「ずいぶん、自信があるのね」
「自信?」
彼女は聞いたことのない言葉を聞かされた人のようにぽかんとしている。
そこに余裕が見えた気がして、私の心がまた黒く染まる。
陸上部に移ったからってえらそうに。
先輩たちがいない部で自分たちの思うようにすべて作りあげていけるなんてずるい。
朝子がどんな気持ちでいるのか、何も知らないくせに。
「言ってくれるわね……もし、できなかったら?」
「その時は……そうね、この髪をばっさり切るっていうのはどう?」
あまりにも彼女がさらりと言ったので、私は驚きを隠せなかった。
彼女(5)・終