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● カルナバル 10  ●

 前日までバタバタしたまま、文化祭当日を迎えた。
二日前になってから教室の飾りや立て看板を増やそう、ってことになって五十鈴屋に飾り用の紙を買い物に走ったりしていたし、教室の机やいすを後ろに寄せたり模造紙を貼るためのついたてを美術室から持ってきたりしていた。
クラスはクラスでバタバタしてた。
本当に始まるのか、実感がないままだ。


 展示用の模造紙は当日の朝に貼るってことにしてあった。
広げてついたてに貼りつけようとするけど、うまくいかない。
「瞳、いすもう一個持ってきた方がよくない?」
あたしが一生けんめい腕を伸ばしているのを見て、世良が言う。
上のほうは背伸びしてもきつい。
「ちょっと、男子! 手伝いなさいよね!」
酒井さんが叫ぶ。
教室のすみっこにいた男子がわらわらとこっちに寄ってきて、あちこち押さえてくれる。
「左側、もうちょっと上にあげて」
離れて高さの確認をしている伊狩さんが言うと、左側を押さえている牧村くんが声をあげる。
「こんなもんか?」
「うん。 そこで留めてくれる?」
園部くんと黒川くんが下のほうから画びょうを留めている。
上のほうを先に留めないとずれるんだけどなぁ。
「瞳、ほら」
展人が画びょうの箱を黒川くんから受け取って、あたしに渡そうとする。
「何個かだけくれる?」
箱ごと渡されても受け取る余裕もない。
展人はあたしが差し出した左手に画びょうを三つほど乗せた。


 どうしよう。
あたしはすぐに後悔した。
右手で模造紙を押さえているんだから、左手に画びょうを持ってもうまく動けない。
そうだ。
あたしは画びょうをいったん制服のスカートのポケットにしまう。
これならさっきよりは取りやすいかも。
そのまま、ひょいひょいとついたてに画びょうを刺した。
そうやって二枚目、三枚目も貼りつけていく。


 「終わったか?」
板河くんと鈴木、それに川添さんが外から戻ってくる。
二人とも校内のあらゆるところに立て看板や案内をはりつけてきたところだ。
「終わってるよ」
あたしたちが模造紙を貼りつけている間に、小物たちも小泉さんと川村さんたちによって布をかけた机にそれぞれ並べられている。
この布も三日前に急いで用意したものだ。
それまで誰も言い出さなかったことに、あたしたちの準備の甘さがわかる。
「これ、山内先生から預かってきたよ」
川添さんがみんなの目の前に出したのは四角い箱のようなものだった。
「何これ」
「金庫だよ。 先生が用意してくれるって言ってたやつ」
これが金庫か。
確かに小さい。
横に倒した辞書ぐらいの大きさしかないし、上に取っ手がついてて持ち運びは便利そう。
「小銭は後で入れるから、最初の当番の人、忘れないでね」
酒井さんが一日目最初の当番の香取くんと重野くんに言った。
そうか。
お釣りとか出るかもしれないもんね。


 「そろそろ移動しないと、先生が来ちゃうよ」
いったん体育館に行って、出席確認だけ取るんだ。
でないとサボってる子とかいるかもしれないから。
「カバンとかここに置いててもいいのかな?」
伊狩さんが尋ねると、酒井さんが言う。
「いいと思うけど、お財布は自分で持ってよ。 盗難が怖いからね。 一番確実なのは部室かな」
何があるかわかんないもんね。
あたしも後で部室にカバン置いてこようっと。


 教室の時計を見たら、八時二十五分になるところだった。
集合時間は八時半。
あたしたちは急いで廊下を走りながら移動した。
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