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● カルナバル 9  ●

 文化祭が近くなると、クラスはさらにバタバタし始めた。
当日発表の演劇もそうだけど、当日の食品のチケットが回り始めたんだ。
「藤谷、チケット買わないか?」
教室であたしに声をかけたのは佐々田だ。
「何のチケット?」
「たこ焼き。 俺らが作るんだぜ?」
佐々田は胸をはった。
これって男子テニス部がってことだよね?
でも、時間帯見計らって行かないと、永野がいるんだろうなぁ。
無実の罪を着せられそうになって大ゲンカしてから一年以上がたつ。
もうからまれたりはしないと思うけど、あんまり顔を見たくない。


 「佐々田の店番の時間っていつ?」
「一日目の昼ぐらいだけど」
「じゃあ、その時間に買いに行くよ」
「二枚買うだろ?」
佐々田に確認するみたいに聞かれて、あたしは答えに詰まる。
一日目は智穂や世良と回る予定だから、もっと買うべきだよね?
文化祭の期間は二日間あるんだし。
「じゃあ、二枚買う」
「まいど。二枚で300円な」
小銭入れを取り出して佐々田に渡す。
「もし券余ったら鈴木に回せよ。 二日目一緒に回るんだって?」
あたしは真っ赤になってしまった。
「な、何で……」
何で知ってるの、と言いたかったが、言葉にならない。
「何でって、その態度見れば一発でわかるだろ」
あたしの態度がわかりやすいのは片思いの時から変わっていないらしい。
「……ってのは嘘で、赤垣から聞いた。 あいついろいろ詳しいのな」
「――っ、展人ーーっ!!」
佐々田の言葉の後半部分はあたしには聞こえていなかった。
ただ、恥ずかしさで展人に向かって叫んでいた。


 佐々田から買ったチケットのほかに、クラスメートから茶道部のお茶券を買ったり女子バスケ部の子からポップコーンの券を買ったりしたので、あっという間に食品のチケットがたまっていった。
「世良、どこの部の券買った?」
「女子テニス部からジュースの券と佐々田からのと柔道部の焼きそばの券、茶道部のお茶券買ったよ」
「智穂は?」
「あたしは佐々田くんからの分と卓球部のわたあめしかないや」
「わたあめ? そんなのあるんだ」
「そうみたい」
「あ、そうだ」
世良が思い出したようにつぶやく。
「冴良が文化祭、来るって言ってたよ」
え?
「ええっ? その日は相川中だって文化祭でしょ?」
あたしは驚いて声をあげる。
中平市内の中学校はだいたいが同じ日程のはずだ。
「一週間後ろにずれてるみたいだよ。 あたしたちが陸上部で参加するって言ったら『来る』ってさ」
そうなんだ。
ど、どうしよう。
どうしようって言っても本人が「来る」って言ってる以上、止めようがないんだけど。


 あ、鈴木は何のチケット買ったんだろう?
佐々田のは確実だから二人とも買ってしまったことになる。
二日間とも予想以上のたこ焼きを食べる姿を想像したら、何だかおかしかった。
もし買ったのが二人でも多すぎたら和紗か後輩たち、当日の当番にでも差し入れしようっと。
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