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● カルナバル 11  ●

 体育館での点呼の後、部室には最初の当番の香取くんと重野くん以外の全員がいた。
みんな直接こっち来たのかな。
9時半を少し過ぎて、放送が流れる。
『ただいまより、西山中学文化祭を始めます』
「よっしゃ、行くかぁ!」
板河くんが大きな声を出して、立ち上がった。

 

 「じゃあな」
「うん、またね」
あたしは鈴木と展人に手を振って、部室前で別れた。
「鈴木くんと瞳って仲良いよね」
合流した智穂がそんなことを言った。
「どうせまた明日見せつけられるんだよ。 七島神社の祭りの日みたいに」
「世良っ」
あの時は見せつけたわけじゃないし。
鈴木が手を離してくれなかっただけで。
文化祭が始まったといっても、すぐににぎわうわけじゃない。
それでも廊下に私服の人が見えるのが何だか変な感じがする。
あたしたちはその辺をふらふらとうろついている。
だんだんとあちこちから楽しそうな声が聞こえてきた。
どこかの教室でテープをかけているみたいで、音楽も聞こえる。
あたしは点呼の時にもらった、パンフレットを手にどこに行こうか迷っていた。
「どこか行きたいところってある?」
世良が智穂に聞く。
智穂も迷っているみたいだ。
「まだ食べ物って感じじゃないしねぇ」
「女子テニス部のジュースぐらいなら、引き換えてこれるけど」
あんまり重くないものなら引き換えに行けるし、委員会の展示なら見れるかも。
「うちのクラスの演劇って何時からだっけ?」
「今日は一時半からだって」
パンフレットとにらめっこしていた世良が顔をあげる。
「よし、女子テニス部のジュース引き換えてから美術部行こう」
「ええっ!」
智穂が声をあげる。
「え、ダメだった?」
「う、ううん」
あたしたちは女子テニス部が借りている一年生の教室に向かって歩き出した。


 
 美術室はひっそりとしていた。
昇降口のすぐそばなのに、人が入っていない。
「入ってもいいかな?」
「葛西先輩」
「どうぞ」
教室の中には和紗と知らない一年生が二人いた。
智穂のこと、「智穂ちゃん」とは呼んでないんだ。
いくら幼なじみでも、部活では先輩だから呼びづらいのかな。
そんなことを思った。
入っていっても和紗たちは何か声をかけてくるわけではなく、静かに作品を見ることができた。



 あたしはある作品の前に足を止めた。
『葛西智穂』
『藤谷和紗』
二人の名前の上に展示されている、絵。
それには同じ題名がついていた。
『走る人』
二人の絵が一つになるような構図で描かれていて、言われなくてもそれがあたしたちのことだとわかった。
遠くを鋭く見つめる目とまるで風を切り裂くように走っていくその姿で。
「これ……」
智穂の方を見ると、智穂がゆっくりうなずいた。
「瞳たちの県大会を見た時に『描こう』って決めたの。 そうしたら和紗ちゃんも描くっていうから、『二人で一緒に描こう』って誘ったの」
「世良……」
「……びっくりした、としか言えない。 すごい」
世良も絵に圧倒されているみたいだった。
「よかった。 二人に何て言われるか、それが怖かったから」
あたしは首を振った。
智穂や和紗にはあたしたちがこんな風に見えている。
それを知ることができたのが嬉しい。



 また、こんなふうに走る日が来る。
来月は県新人大会が待っている。
その前に今月なかばには相川・南町・西山の三中合同での記録会がある。
月末には中平市駅伝大会もある。
もっともっと走りたい。
限界まで。



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