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● カルナバル 13  ●

 一日目が無事に終わった。
あたしと世良が帰りにカバンを取りに部室に戻ったら、板河くんと酒井さんが何だか難しい顔をしていた。
「どうかしたの?」
あたしが声をかけると、酒井さんは机から顔をあげた。
机の上には何枚もの写真が散らばっている。
「二人とも明日の当番だったよね?」
「うん」
あたしたちはうなずいた。
世良は明日の午前中、あたしは二日目の最後の当番だ。
「あのね、今日、展示の写真がはがされたところがあるの」
「えっ!」
驚いた。
だって、あたしたちが行った時間には展示は何ともなかった。
「おそらく午後になってからやられたんだと思うけど、誰もはがされた瞬間を見てない。 明日の朝、一応当番のみんなに声かけるから、藤谷も河内も注意して見ててくれるか」
「わかった」
「俺ら、写真貼りなおしてから帰るわ」
「手伝わなくて大丈夫?」
「平気だよ」
「それじゃ、また明日ね」
あたしたちはカバンを持って部室を後にした。


 「何かいやな感じだよね」
世良がぼそりとつぶやくのを、あたしは黙って聞いていた。
せっかく楽しくしようと思って頑張って作ったのに、写真をはがすなんてひどい。
「写真なんて持って行ってどうするんだろう?」
あたしは世良の言葉を聞きながら考えていた。
女子がたまに生徒手帳の内側に好きな人の写真をはさんでいるのを見たことがある。
もしかして陸上部に好きな人がいる人が持って行ったんだろうか?
あたしと鈴木みたいに友だちじゃない人だと写真なんて簡単に手に入らないことぐらいはあたしもわかる。
全然知らない相手に「生徒手帳にはさむから写真ください」とか言われたら、怖いだけだよね。
でもあたしの予想通りだとしても、盗んだものをはさんで持っているって嫌じゃないのかな?
そういう気持ちがまだよくわからない時がある。


 二日目の朝に部室に集まったみんなに板河くんが昨日の写真のことを話した。
「そういうわけだから、受付は注意して教室の中を見てて欲しい」
「誰の写真がはがされたとかわからないんですか?」
一年生の小泉さんが尋ねた。
「いや、わからない。 だから、全員の写真がはがされる可能性がある」
そうか。
誰の写真がはがされるか、まったくわからないんだ。


 「藤谷、気をつけろよ」
部室を出るときに鈴木に言われて、あたしはポカンとしてしまう。
「写真のこと。 三年のやつに狙われてるんじゃないのか?」
あ、八坂先輩のことか。
「あれから何も言ってきてないよ。 たぶん違うと思う」
先輩に襲われかかって倒れた日からずっと、何も言われてない。
告白魔だってお姉ちゃんも言ってたし、また誰かに告白してるんじゃないだろうか。
それか高校受験に備えて大人しくしてるか。
あたしはむしろ鈴木の写真が持って行かれたんじゃないかと思ってる。
梁瀬さんが鈴木とあたしのことを知ったとして、簡単に諦めてくれるかどうかわからないから。
小学校時代から好きだったならなおさらだと思う。


 もし梁瀬さんが鈴木の写真を持って行ったんだとしても、鈴木のことは渡せない。
一度つかんだこの手を絶対に放す気なんて、少なくともあたしにはない。
あたしは隣を歩く鈴木の左手を力強くつかんだ。
鈴木が驚いたみたいに、こっちを向いた。
「ふ、藤谷?!」
そんなに驚かなくてもいいのに。
あたしは普通の顔をして鈴木に尋ねる。
「どうかした?」
「……や、何でもない」
鈴木はあたしの顔をまじまじと見つめた後、そう言った。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに、変なの。
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