モドル | ススム | モクジ

● カルナバル 14  ●

 あたしがつかんだ手を鈴木は指をからませるみたいにしてにぎり返してきた。
気がつくと、展人がすぐそばでニヤニヤしている。
「じゃあな、鈴木」
展人は意味ありげに鈴木に声をかけて体育館の方へ消えていった。
その笑いは何なのよ。


 「どこか行きたいところってある?」
あたしは昨日聞いた台詞をそのまま鈴木に返す。
「藤谷は?」
鈴木が聞き返してきたけど、あたしはどこも行く気がなかった。
行く場所を決めずに二人でふらふらしているだけでもいい。
そのくらいふわふわした気分だ。
いつもと違う空気に包まれているせいだろうか?


 あたしはもう一度智穂と和紗の絵が見たかった。
あの絵を見て鈴木がどう思うのか、知りたかったから美術室に行くことにした。
渡り廊下を抜けて西階段の前を通り過ぎようとした時に、ちょうど階段を降りてきた人の顔を見てあたしは立ち止まる。
梁瀬さんだ。
梁瀬さんの隣にいた子があたしたちを押しのけるようにして廊下を走り抜けて行く。
梁瀬さんはあたしたちの方を見ないようにしながら、その後を追いかけていった。
あたしは鈴木の方を見る。
鈴木はただ前を見ていて、その後で少し前髪をかき上げた。
「行こうぜ」
隣を歩く鈴木が声をかけてくれて、あたしは歩き出す。
声をかけてくれなかったら、いつまでもあそこでぼうっとしていただろう。
「美術室行った後に、卓球部のわたあめ食べに行かない?」
言ってから、しまったと思った。
梁瀬さんは卓球部だ。
今の時間に当番じゃないなら大丈夫かもしれないけど、またはち合わせするかもしれない。
「いや、行くなら藤谷が行ってこいよ。 俺は別のところで待ってるから」
鈴木は困った顔をしながら答える。
その顔を見て、反射的に言葉が出た。
「ごめん」
「何で謝るんだ?」
聞き返されてあたしは困ってしまう。
こういう時、何て言えばいいんだろう。


 さっき梁瀬さんはあたしたちの方を見ないようにしていたみたいだけど、ほんの一瞬、見てしまった。
あたしたちのつないだ手とその先にあるプロミスリングを見ていたのを。
プロミスリングは色が違うから、言わなければ鈴木の分はあたしが作ったなんてわからない。
でも、手をつないでいたのは『友だちではない』決定的な証拠に見えたはず。


 同じ人を好きなあたしと梁瀬さんには何の差もなかった。
差があったとすれば、あたしは告白し、鈴木がそれを受け入れたことだけ。
それだけのはずなのに、何であたしは梁瀬さんに悪いことをしたような気分が消えないんだろう。
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2009 Ai Sunahara All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-