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● カルナバル 15  ●

 あたしたちは美術室に行って、あの絵を見た。
和紗も智穂もいなくて、あたしはほっとした。
鈴木は昨日見てなかったみたいで、絵の前に連れて行ったら驚いていた。
「これって藤谷の妹と葛西が描いたってことか? すげぇなぁ」
つぶやくと真剣な目で絵を見ている。
何だか試合の時の自分を見られているようで、とても緊張する。

 
 美術部を出て、体育館へ向かう。
2年B組の演劇を見た。
『ロミオとジュリエット』を下敷きにした話だった。
西山中学には演劇部がないから、みんな素人だ。
がんばって練習したんだろう、あたしは最後には感動の涙をこぼしていた。
「藤谷」
鈴木の呼ぶ声にあたしが顔を上げると、腕をこっちに突き出している。
「これでふけ」
え?
「いいから」
ますます腕を突き出されたので、あたしは腕にすがりつくようにして泣いた。
恋にあんなに悲しすぎる運命が来ていいんだろうか。
昨日も世良や智穂と見たけど泣けなかった。
隣に鈴木がいるから泣けるのかな。
後ろや周りの視線も知らないふりをするよりも先に、まったく気にならなかった。


 
 どこかの教室に行く前に泣いた目をなんとかしたくて、校舎に戻って水飲み場の鏡を見た。
鈴木は用があるらしく部室に行ってしまう。
目が真っ赤だ。
スカートのポケットから目薬を出してさす。
手のひらに水をつけて目の周りにつけると泣いたのもほとんど元通りの顔になった。
あたしの後ろを女の子が通っていった。
「見せつけてんじゃないわよ」
あたしは聞こえてきた言葉に思いっきり振り返る。
梁瀬さんじゃなかった。
その子もあたしが振り返るとは思っていなかったのか、驚いた目でこっちを見ている。
いったい誰だろう。
考えているうちに言葉が飛んでくる。
「知実が好きな人、横から奪うなんてサイテー」
やっと思い出した。
さっき階段で梁瀬さんの隣にいた子だ。
『知実』って梁瀬さんのことか。
あたしに反論する間も与えないで、その子はサッと水飲み場からいなくなってしまった。


 誰かを好きになるのにズルとか奪うとかあるのかな。
後から好きになったら、その前から好きな人が告白するまで待てってこと?
ばかばかしい。
梁瀬さんはあたしに言ってきたからわかっただけだ。
普通は誰が誰を好きかなんて、うわさだけ聞いてたって超能力でもない限りわかるわけない。


 その子がいなくなった後に、足元に何かが落ちているのに気づく。
白い紙のように見えたそれを手に取ってひっくり返す。
それはあたしの写真だった。
――何で?
あの子、梁瀬さんの友だちだよね?
鈴木の写真をはがして梁瀬さんに渡すなら、まだわからなくもない。
本当は嫌だけど。
でも、何であたしのをはがしているの?
っていうか、昨日はがされた写真なの?
それとも今日?
疑問だらけのあたしの頭の中は混乱してしまう。
鈴木が戻ってきて、あたしの手の中にある写真を見た。
「これ、どうした?」
あたしは梁瀬さんとその子のことは言わずに、ここで拾ったと言うと鈴木は何か考えているようだった。
鈴木って必ず、考え事するときに唇に手をあててるんだよね。
たぶん本人は気づいてないと思うんだけど、言った方がいいのかな?


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