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● カルナバル 4  ●

 次の日の放課後、家から探し出した小物を持って部室に行く。
お母さんは昔、趣味で作ったというビーズを編み込んだ小銭入れを三つくれた。
「あなたたちが生まれる前に作ったのよ。 ずっとしまっておいたわりに色あせはないわね」
お母さんのお姉さん、あたしたちのおばさんに作り方を習ったんだって。
和紗はイヤリングをくれた。
通信販売でつい買っちゃったんだけど、つけてないからって。
「通信販売?」
「うん。よく雑誌の裏表紙で宣伝してるやつ」
あたしは買ったことがないんだけどかわいいのが多くて、値段もそんなに高くないんだって言ってた。
もったいないなぁ。
休みの日に使ったらいいのに。
「休みに家の中を探しだしたら、もっといろいろ出てくるかもしれないわね」
お母さんは言ったけど、そんなにいらない。
でも、二日間売るんだからたくさんあった方がいいのかな?


 「何も出ないかもしれない」と言っていた展人も、自分のあまり使っていない小物を探し出してきた。
ペンダントと手のひらにおさまるような、本当に小さな小物入れの二つ。
ペンダントには透明な丸いガラスがついている。
小物入れもシンプルなんだけど表面の飾りはとてもこった作りだ。
これ、本当にいらない物なのかな?
「いいの?」
あたしは展人に確認する意味で聞いた。
「いいんだ」
展人はそれだけ言った。


 何となく、思った。
展人の出してきた物は誰かに渡せなかった物なんじゃないだろうか?
ペンダントも女の子向きな感じだし、小物入れはあたしたちでは大人っぽいけど、お姉ちゃんか少し年上の人なら喜びそうな感じのものだった。
でも、たとえば真季子おばさんの誕生日とかに渡せなかったって感じでもない気がする。
あたしは展人にそれ以上何も聞かなかった。
聞いても展人のことだから、上手にはぐらかされそう。

 
 部室に集まった物は思ったとおり、さまざまある。
紙袋の一番上に置かれている、木彫りの熊一頭と同じく熊のミニサイズを持ってきたのは誰なんだろう?
これってやっぱり……。
「誰だ、北海道みやげを売り物にしようってやつは」
「あ、それ俺」
園部くんの問いかけに答えたのは、黒川くんだった。
「家で父親に『いらない物ないか?』って聞いたら、物置からそれ出されたんだよ」
黒川くんはそう言った。
「このミニサイズのも?」
川添さんが尋ねると、今度は違う方向から声が返ってきた。
「そっちは俺だ」
香取くんが答える。
どうして、同じような物がそろってしまったんだろう?
たまたまなんだろうけど、タイミングが良すぎる。
誰かが吹き出した。
それに反応するみたいに、大声で笑い始める。
あたしもつられて笑ってしまう。
部室はあっという間に笑い声でいっぱいになった。


 部室に入ってきた部長とその後ろに立っていた鈴木があまりの声の大きさに扉を開けた瞬間、固まっていた。
「いったいどうしたんだ?」
不思議がる二人に世良が理由を説明すると、二人も笑い出した。



 その日は二つの木彫りの熊を思い出すたびに誰かが笑い出すので、着替えて外で部活動を始めてもいつものちゃんとした部活動にならなかった。


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